アンダーグラウンド掃討作戦(十七)
銃剣を取り付けた柳田が顔を上げる。直ぐにぶっ放した。秘密兵器の陰に隠れようとする黒井に向けてだ。
『パパパッ(チュイン)パッ(チュイン)』
躊躇なくトリガーを引き続けると、三発目から近くで跳弾する音が加わる。柳田は火花に驚いて顎を引き、撃つのを止めた。
今度は背中に銃を回したりはしない。両手で構えたまま回り込む。
今度は銃剣がある。槍のようにひと突きだ。覚悟しろっ!
意気込んでいた。ふと、もう一人は? いないぞ?
黒田がいないことに気が付いて、柳田はパッと振り返る。
しかし、後ろにもいない。どこだっ! 機関車か?
「おりゃーっ!」
機関車に隠れたのかと思えば、上からだった。柳田は左手を銃から離し、頭を守るために高く上げる。
黒田が秘密兵器を超えて来ていた。足を折り畳み、正座をしている姿勢の自動警備一五型の肩に捕まっている。
そこから自分の体を『振り子』のようにしていたのだ。
柳田は『銃を上に向けておけば良かった』と、思ったがもう遅い。
それに、例えそうしたとしても無駄だったに違いない。
銃剣を構えた兵士が屯する塹壕に、黒田は飛び込んだことがある。それは一度や二度ではない。何度もだ。故に『銃剣がある』と判っている所へ、真上から飛び込む訳がないのだ。
もちろんそのときは、こちらも『歩兵銃』なり『手榴弾』を持っていたのだが。今は丸腰だ。
「三八式じゃねぇぇぇっ!」
黒田の心の叫びは一旦無視するとして、柳田の様子を説明しよう。
肩から脇に掛けて、軍用のブーツ底と同じ衝撃を受ける。
それは、女王様からの踏み付けより痛くはなかったのが、吹き飛ばされるには十分な勢いだった。
『パパパッ』
銃声が響く。しかしそれは、思わずトリガーを引いてしまっただけで、空しく空へと撃ち上げているだけだ。
上半身が足の支えよりも先へと、つまり貨車より外へと動く。眼下には、高速で流れて行くバラストが見える。
しかし貨物列車は、若干『スピードオーバー気味に』右へとカーブしていた。ブレーキからの火花も良く見えるではないか。
遠心力が左方向にあったせいか、柳田は踏みとどまる。
「放せっ! コノヤロォォ」「放すかよっ!」
吹き飛ばされなかったのは『遠心力のお陰』、だけではなかったようだ。柳田は黒田のズボンに左手を引っ掛けていた。
黒田が足を掴まれてバタバタしているが、右足を掴まれているのを左足で払うのはやりずらい。
柳田は揺らされてはいたものの、態勢を立て直していた。
右手に持った89式は安定していないが、このまま黒田に向けて発砲すればどうにかなる。そう確信してトリガーを強く引く。




