アンダーグラウンド掃討作戦(十三)
揺れる貨車の上で、黒井と柳田の睨み合いが続いている。黒田が蹴り落とす筈だった足柄駅を通り過ぎた。
すると再び辺りは暗くなって、見えてるのは扉から漏れ出るスパークする明かりだけ。バチバチと不穏な音を立てながら。
柳田は点滅する黒田の顔を凝視しながら、左手を強調するように前に出し、腰の辺りをゆっくりと探っていた。
腰のホルダーに挿した、銃剣を取り出すためだ。
突然機関車の方から『ピーッツ』と大音量が。警笛だ。続いて『ガタタン』と、更に大きな音が響く。
二人の足元に『鉄橋』の感覚あり。睨み合う両者の思いは、どうやら同じだ。直ぐに動き出す。
しかし柳田の方が速かった。
警笛が鳴った瞬間、黒井は『あのペダルを踏んだんだ』と機関車の方を、チラ見していたからだ。
銃剣を逆手に持った柳田の右手が、黒井の胸辺りを襲う。
黒井は突然下がった柳田の左手を見て、蹴りが来ると予想する。
チラ見した左側から、柳田の右足が来る。そう思っていたのだが、襲って来たのは右足ではなく右手だった。
ならばと、そのまま宙に浮かせていた右足を蹴り上げる。カウンターで顎につま先が入るだろう。
間合いが詰まっていれば、そのまま蹴り込んでも良い。線路の両サイドには何もない鉄橋だ。そのまま川へ落ちるだろう。
そのまま左足のつま先に力を入れ、前へ飛び出そうとしたときだ。黒井の目は柳田の右腕の先、スパークする明かりを映した『金属片』を捉える。一瞬でそれが『ナイフ』だと判った。
そのまま前へ出るか。後ろに下がるか。考えている余裕はない。
黒井は前へ出ていた。歯を食いしばって右腕を振り抜こうとしている柳田の前へ。右足を伸ばしたまま飛び込む。
せめてもの『抵抗』は、左腕を下げて脇腹を守ることだけだ。
黒井の足が柳田の体へと到達する直前に、柳田の右腕が黒井の目の前を通り過ぎて行く。あっという間のことだった。
しかし次の瞬間、黒井の右足にも感あり。靴底からメリメリとめり込んで行く感触が伝わって来る。
柳田は左腹に蹴りを食らっていたが、それは冷静に対処する。右回転しながら蹴りをいなしたのだ。
反射的に左腕を素早く引きつけて顎を守る。
それよりも、右手に痛みを感じていた。黒井に切りかかったのは、銃剣の『刃の無い方』だったのだ。
逆手に持ったのが裏目に出たと言える。
しかし指を怪我していて、鞘から出した瞬間に『クルリ』と回転出来なかったのも事実だ。
そのまま振り切った右手を顔の前まで起こすと、黒井の顔に目掛けて振り下ろす。これなら『銃剣の正しい使い方』である。
黒井のどこかしらに、グサッと刺さることだろう。
黒井は右足裏の感覚が消えて、すっぽ抜けたことを理解して焦る。




