アンダーグラウンド掃討作戦(七)
普通、貨物列車に飛び乗る人はいない。
朝の通勤時間に、何だか『飛び乗れそうな速度』で通過していくのを見かけることもあるが、良い子はグッと我慢だ。
それにコンテナを運ぶ貨車は、無蓋車と違って床がない。だから飛び乗っても、線路に落ちてしまうだろう。
例え先に謝ったとしても、ホームからチャレンジするのは厳禁だ。
一応先に警告をした所で話を戻す。柳田は動き出した貨物列車に飛び乗っていた。
両手でしっかりと掴まっている。銃は背中に括りつけておいたので、まだ背中にある。問題ない。
振り向けば真田と木田は追い付けずに、線路脇に転がっている。
どうやら『一人旅』となってしまったようだ。
「どっちから行くか」
一人で列車の両端にある機関車を制圧するのは、どう考えても無理だ。柳田は上官の言葉を思い出す。
『重村大佐の方は、小柄で年寄らしい。黒井中佐は大柄だ』
「前から行くか」
頭の中で素早く『作戦』を立案して、柳田は動き出す。
どうやら『やり易そう』な重村大佐の方から行くことにしたようだ。それに前を制圧すれば、貨物列車を停車させることができるに違いないと、勝手に思ったのもある。
無線で連絡を取り合って、両方の機関車がアクセルとブレーキを同時に操作する『協調運転』を行っていることを柳田は知らない。
さっき機関車の運転台に上がった真田は、降りて来てから『そんなこと』を伝えていなかったからだ。
それに、ただの『アイドル好き』でしかない柳田にとって、機関車の『EF61』と『EF62』も、それに『EF63』も『EF64』でさえも、もちろん『EF65』の見分けなど付かない。
全部ひっくるめて『機関車』なのである。
仕方ない。人には『好み』というものがある。
前述のカッコの中に『アイドルの名前』をぶち込んでみれば良い。熱烈なファンでなければ、『見分け』何て付かないものだ。
そうこうする内に、柳田が前の機関車に取り付いた。
秘密兵器を満載した貨物列車に『柵』はないが、シートを掛けられただけだったのでそれを掴んで移動して来たのだ。
それでも、足を固定する留め具付きの『コンテナの床だけ』の上に乗っている。如何にも『急ごしらえ』の奴だ。
だから貨物列車にしてみれば、『コンテナと同じ』なのである。
機関車の前面貫通扉はロックされていた。当たり前だ。
柳田はその、名前も知らない扉を叩くと、大きな声で叫ぶ。
「開けろっ! おいっ! 開けるんだっ!」
叩いても返事がない。それも当たり前だ。
何しろ現在、運転台は『お仕事中』なのである。まさか後ろからノックされることなんて、想定されていないのだから。




