アンダーグラウンド掃討作戦(六)
「コールサインは『ワイルド・タイガー』に、なったんですか?」
機関士が『機関助手』に笑いながら聞いている。
確かに『飼い虎』よりは『野良虎』の方がカッコイイ。その『ネームセンス』は認めよう。
しかし、そう思えてしまうのが黒田の嫌な所だ。
いつも言い包められてしまう。いつか『ギャフン』と言わせたい。いや、絶対言わせて見せる。
今日は『佐々木雄介』の黒井保は、口をへの字にすると両手の平を肩まで上げた。首も竦めるおまけ付きだ。
「何だか、勝手に決められちゃいましたよぉ」
「あはは。良いじゃないですかぁ」「良かないですよぉ」
慰めにもなっていない。しかし機関士の佐々木がそう言うのには、それなりの『理由』があるようだ。
「だって『我々』が無線を使うときに、『コールサイン』なんてありませんしぃ」「へぇ。そうなんですかぁ」
さり気なく機関士が口にした『立場の違い』に気が付いたのは、黒井の他には読者しかいない。
どうやら国鉄には、『コールサイン』がないらしい。黒井は口を尖がらせる。
「じゃぁ、どうやって呼ぶんですか?」
不思議そうに無線を指さして、今日も佐々木の機関士に聞く。
「普通に『列車番号』ですけど」「あぁ」
そのまんまだった。それでも納得なんて出来なくて、黒井は再び口を尖らせる。
軍隊でも自衛隊でも、固有の『機体番号』で呼び合ったりはしない。それは敵に『情報』を与えてしまうことになるからだ。
仮に『F2戦闘機』が、基地に十機配備されていたとしよう。
戦闘を終えて帰還するときの無線でさえも、敵に傍受されている。
だからそこで『十三番機が被弾・オイル漏れ』なんて報告したとしよう。
すると敵に『あぁ、明日は一機減ってるな』と、バレてしまう。 例えそれが『パイロットの命を守るため』に、消防車を待機させるための連絡だったとしてもだ。
オイルと同じく情報だって、どこから漏れるか判らないものなのである。油断大敵雨あられ。隣の柿は良く客食う柿なのだ。
それはともかく。ブラック・ゼロの黒田と黒井を乗せた、国鉄の極秘軍用貨物列車は、極秘の『秘密兵器』を満載して富士演習場を走り出す。時刻表にも載っていない秘密の時刻丁度に。
あぁ『無事に』と付けなかったのには、それなりの理由がある。
「その列車、まてぇっ!」「止まれぇぇっ!」「ゼェハァ」
三人の兵士が大声で叫びながら、追い掛けていたからだ。
しかし、ブラック・ゼロの黒田と黒井を乗せた、時刻表にも載っていない国鉄の極秘軍用貨物列車は止まらない。
バラストを蹴散らす音だけが闇に響いている。
一人はコケてしまった。もう一人は巻き添えで。最後の一人だけが、ブラック・ゼロの黒田と黒井を乗せた、時刻表n(以下略)た。




