アンダーグラウンド掃討作戦(三)
そこには、小太りの男がいた。狭い運転台では窮屈そうだ。
しかし、聞いておいて何だが、一別して違う。手にしている『似顔絵』とは全然違っているのは確か。
兵士は『目はちょっと似ている』と思ったのであるが、とりあえず口を尖らせるしかない。空振りだ。
しかし『協力者』であるか、何処かで『証言者』あるか。
はたまた、心と体が入れ替わった『転生者』であるかは、最低限確認せねばなるまい。
兵士は小太りの男からの返事を待ちつつ、制服の『名札』を見た。
「どうなんですか? 佐々本さん?」
「佐々木ですぅ」
直ぐに言い返されて、兵士は目を擦り歯を見せて笑う。
しかしそれは『作戦』だったようだ。佐々木が胸の『名札』を摘まんで見せているので、それを覗き込むと直ぐに聞く。
「これは失礼。佐々木ぃ、(健)、誰さん?」
「八戸運輸区の佐々木『健吾』ですぅ」
名札にはない所属を含め、フルネームを答えたので真顔になった。
しかしパッと振り返ると、運転手も『佐々木』ではないか。
「あなたも『佐々木』さん?」
「はい。八戸運転区の佐々木『雄介』です」
今度は兵士が呆れると、口を尖らせた。
いや、別に全員『佐々木』だって良いではないか。別に『悪いこと』を、している訳ではないのだから。本人にしてみれば。
「こっちの『佐々木さん』は、何をしているの?」
兵士は後ろになった小太りの男を親指で指し、目の前にいる運転手に聞く。
すると『仕事の邪魔をするな』とばかりに、説明を始める。
「お宅の『秘密兵器』が重たいのでぇ」
身振り手振りで貨車の連結具合を表す。そして広げた両手で拳を作ると、それを機関車に見立てて『ガシャン』と挟み込む。
「前後を機関車で挟むようにして走っているんですよっ」「はぁ」
そんなこと言われても、兵士だって困る。ちょっと『面倒臭い質問をしちゃったなぁ』と思い始めても手遅れだ。
「だから、前後の機関車で『協調運転』をするのに、『補助員』として乗っているんです」「そうなんですかぁ」
運転手はチラっと時計を見ると、運転台へ向かって歩き出す。
兵士の横を通るときに、『退け』とばかりに兵士を睨み付けた。
それに驚いて兵士は思わず道を譲ってしまったのだが、任務は忘れてはいない。
「それで、何をしているんですか?」
「無線で『ノッチ』の報告と、信号を伝えるんですよっ」
兵士は小太りの方に聞いたのに、答えたのは運転手の方だ。
先に答えられてしまったのか、佐々木健吾は、首を勢い良く『そうそう』と縦に振るだけだ。




