アンダーグラウンド掃討作戦(二)
「これがアクセルで、これがブレーキねぇ」
機関車の運転席に座る男が、運転台のレバーを順番に指さして、隣に立つ男に笑顔で説明している。
「へぇ。じゃぁ足元のこの『ペダル』は何ですか?」
車しか運転したことがないのだろう。手元で『アクセル』と『ブレーキ』を操作するなら、足元のは『クラッチ』だろうか。
「これは『警笛』ね。『プワーン』って奴」
笑いながら足を乗せるだけしてみせた。音は口だけだ。
「へぇぇ。こんな所にあったんですねぇ」
予想とは違っていたが、『プワーン』には聞き覚えがあったのだろう。大きく頷いた。
「踏んでみるぅ?」「えっ、良いんですかぁ?」
「駄目ぇー」「ちょっと、何だぁ。もぉぉ」
運転手が両手で『×印』を出すと、隣の男が残念そうにのけ反って笑っている。
もうそろそろ出発だ。営業運転の前に『余計なこと』などしてはいられない。運転手の隣に立つ男自体が『余計な人』なのだから。
するとそこへ『コンコン』と音がして、二人の顔から笑顔が消えた。運転手が立ち上がり、反対側のドアの方へと歩いて行き、ドアの窓から下を見下ろす。
二人の兵士が立っていて、極悪人らしい『似顔絵』をこっちに向けている。運転手が『はい?』と首を傾げても何も答えない。
それより、早速運転手と手元の『似顔絵』を見比べている。
「この男を見なかったか? 重村大佐と黒井中佐だ」
「こんな所で、ですかぁ? 軍人さんがぁ?」
顔をしかめて運転手が答える。どうやら『そいつら』を探しているのは理解した。すると兵士が似顔絵を下に降ろして声を荒げる。
「軍人じゃないっ! 軍人を名乗っているだけだっ!」
「隠し立てすると許さんぞっ!」
二人でやいのやいの言い始めたではないか。何なんだまったく。
「隠れる所なんて、ありませんよぉ」
両手の平を上にして運転手が答えた。それでも兵士には通じないようだ。拳でドアを開けろとばかりに、叩き始めたではないか。
「あぁ、それはこっちで調べるから開けろっ」
「もう出発するんですけど?」
「じゃぁ、直ぐに開けるんだっ」
持っている銃を弄り始めた。運転手は口を尖らせる。
心の中では『だから軍人さんはぁ』とでも思っているのだろう。
「何も触らないで下さいよ? 危ないですからねっ」「判った」
念を押してから運転手は、運転台のドアを開けた。直ぐに二人の兵士が一人づつずけずけと上がって来る。
ただでさえ狭い運転台に、大の大人が四人。どうするんだ。
するとそこに、運転手ではない男が一人、同乗しているではないか。直ぐに兵士はピンと来て『似顔絵』と見比べる。
「この男を見たか? で、お前は、何をしているんだ?」




