アンダーグラウンド掃討作戦(一)
「重村大佐と黒井中佐の二人組だっ! 探せっ!」「はいっ」
怒号が響いた後に、バラストを踏みしめる音が響き渡った。
大勢の兵士が『似顔絵』を手にして走り回っている。この中に紛れ込んでいる『ネズミ』を探しているようだ。
富士演習場の臨時貨物駅では、訓練を終えた『ロボット軍団』の積み込み作業中だ。
積み込みはNJSの社員と軍人が合同で行っている。
「こちらが『積み込みモード』です」「はい」
「モードを必ず『セーフティ』にしてからですね」「はい」
初回の積み込みは工場だったので、NJS社員が実施した。だから、兵士も積み込みは初めてなのだろう。練習という訳だ。
さっきまで、命を懸けて『対決して相手』とも言える。だから、おっかなびっくりであることは歪めない。
グッと睨まれても『ちびる』程ではないが、手順を間違えれば、ちびる暇さえないのは確実だ。
NJSでは既に、三人『首』が飛んでいる。
工場で耳にしたことはないだろうか。
『あいつの右手、先週まであったよね?』
『そうそう。新型のテストしててさぁ』
こんな感じのヒソヒソ話を。まぁ、それの『首』版だと思って頂ければ判り易いだろう。
「こんな顔の奴、見なかったか?」「何ですかぁ?」
二人で作業中に、突然割り込んで来る兵士。
見せられた紙には『爺さん』と『おっさん』の似顔絵が。まるで、何人も殺して来た様な、酷い悪人面だ。二人とも。
「黒井中佐と?」「重村大佐だ」
黒井中佐の方をトントンと叩いた兵士が、右手を顎に添える。
捜索している兵士が、爺さんの顔を人差し指で『バシッ』と弾いてから顔を挙げると、その仕草に気が付いた。
「見たのか?」「いいえぇ」「紛らわしいっ!」
怒って行ってしまった。積み込み中の兵士とNJS社員が辺りを見回すと、貨車の下やら、機関車の下を探している。
列車は何編成もあるのに、ご苦労なこって。
この世界に『丹那トンネル』は存在せず、東海道線は御殿場を経由していている。
だから東京方面から御殿場を目指すには、急勾配の登り坂が続く。
ロボット軍団を乗せた軍用列車は、富士演習場に来るのも一苦労だ。長い編成には出来ず、幾つもの短い編成でやっと来た。
それも、列車の営業時間が終わってから、始発が始まるまでの間にだ。そうなると、帰りも同様である。
まぁ『最高軍事機密』だし。積み込んだらシートを被せて一丁あがりだ。え? シートで良いのか? だって?
うーん。北海道の最前線にでも投入するのなら『専用の貨車』も作るかもしれないが、今日は初陣だし、間に合ってはいない。
機関車もパンタグラフを上げて、そろそろ準備が始まったようだ。




