ハッカー殲滅作戦(二百七十三)
「そうですね。じゃぁ、あそこの広い公園にでも?」
本部長の首筋に、シュっと人差し指が伸びて来て、それは眼下に見える森と緑の原っぱを指さしている。
「馬鹿。あそこはお前、陸軍の『代々木練兵場』だろうがっ」
パチンと手を弾き落す。やっと『陸軍の研究所』から脱出してきて、また『陸軍の施設』に逆戻りとは。
そんな便利な『定期便』はない。全く。ちょっとは考えてくれよ。
「あぁっと。それは困りますねぇ」
既に高度を落としていたヘリは、キュッと高度を上げる。すると眼下には、再び大都会東京の街並みが見えて来る。
どこも雨を防ぐガラス張りのドームだらけで、ヘリが着陸できそうな広い場所は見当たらない。
もちろん高層ビルなら、屋上にヘリポートがある。
しかし高度を上げて、レーダーに引っ掛かったら、戦闘機の餌食になってしまう。
それに、屋上に降りた後に、ビルへの入り口が開いているとは限らない。ロープを使って、ビルを降下するのも面倒だ。
すると眼下に、広大な墓地が広がって来た。青山霊園である。
本部長はその広大な空き地、いやそれは罰当たりだ。
祟られるかもしれないが、止む無く不時着するには、そこしかないと思われる、人が少なくて、適当な場所を指さした。
「あそこにするべ」「そうしますか」
急に訛ったのは末代までの謎である。もう呪われているのかもしれない。しかしそんなことを、気にしなさそうな二人ではある。
ヘリは方向を決めた後、さらに高度を下げる。
ガラスの屋根に映るその姿が段々と大きくなり、やがて『ほぼ同じ』となった。
ドーム状の屋根に沿って左右に揺れながら進むと、遂に視界が開け石の隊列が広がる。開けているが、平らではない。
高田部長が足元を見て適当な場所を探していると、突然、本部長が前方を指さした。
「おい、今、あの辺にヘリポートが見えたぞっ」
「えっ、とぉっ? あぶねっ、まじすかっ」
二人の顔が輝く。それは『墓石の心配』をする必要がなくなったからではなく、安全に降りられる場所を見つけたからだ。
少し高度を上げると、確かにヘリポートがあるではないか。
渡りにヘリポートとはこのことだ。直ぐに高度を落として機首をやや上にした。決断をしてから行動に移すまでが早い。
それが高田部長の特徴である。一瞬見えたヘリポートに低空で近付く。
すると今度は、やや横向きにスライドさせながら、見事に『Hマーク』の上空でピタリと止めて見せた。
「当機は、青山ヘリポートに、到着致しましたぁ」
呑気な機内アナウンスが流れた時、本部長の顔色が変わった。『何ぃ。青山のヘリポート、だとぉ?』
ここは昔、夏休みの自由研究で娘を連れて来たことがある。
えーっと『水道の防疫展』だった気がする。確か主催は陸軍で。




