ハッカー殲滅作戦(二百七十二)
「空軍がスクランブル発進して、接近して来ます」
ご機嫌な東京散歩をしている最中に、ミントちゃんからの警告が来た。ご丁寧に『EMERGENCY』と点滅しているからに、相当切迫した状況の様だ。
「何でぇ?」
呑気に聞いているのは、操縦桿を握る、あっ、鼻くそを穿っていて握っていなかった、今握った高田部長である。
厄介なことに、本人は『悪いこと』をしている自覚がない。
「何処からだ?」
冷静なのは、バルカン砲のトリガーに手を、こっちは抜いた鼻毛を『フッ』っとやって、ちゃんとズボンで手を拭いてから、今掛けた本部長である。
『調布から二機、柏から二機』「それは陸軍だな」
『立川から、未確認の新鋭二機も上がっています』
「おいおいおい。何をやっているんだよっ」
そんなには相手できないぞっ、な感じで右手を振り、突っ込みを入れている。
どうやら本部長にもヘリのバルカン砲で、戦闘機六機を相手にする程の腕はないようだ。
「もう近くにいるの? 見えないけど」
見えた時はもう終わりなのだが、上下左右を見える範囲で見渡している。しかし、戦闘機の『セ』の字もない。
『高度八千メートルへ向けて、マッハ2で上昇中です』
「マジでっ?」「そりゃぁ受けるっ!」
それを聞いた二人がゲラゲラと笑い出す。
どうやらスクランブル発進した戦闘機は、トランスポンダーが表示した高度を信じ、一直線に上昇中の様だ。
きっと8Gに耐えながら、東京上空に突如現れた『戦略爆撃機』目指して突進中なのだろう。
「じゃぁその隙に、東京湾にでも捨てて来ますか」
「そうだなぁ。夢の島辺りに捨てて置けば、バレないだろう」
呑気な二人は『ヘリの捨て場所』を検討し始めた。
『東京湾は、現在海軍により閉鎖されています』
「えっ、そうなの?」「何で海軍まで?」
『横須賀に待機中だった全艦に、出航命令が下った様です』
二人は訳が判らなくて首を傾げる。
『東京湾内の全船舶は機関停止の命を受け、従わない船は無警告で轟沈するとお触れが出ています』
あらま、随分と物騒な命令が。二人は眉毛を八の字にする。
もしかして、館山基地から緊急発進した対潜ヘリが、次々とソナーブイを東京湾に投下し、横須賀の母艦へと向かう。
入れ替わりに、下総基地から飛来した対潜哨戒機が、血眼になって東京湾上空を飛び回るのも、時間の問題か?
「何処でも良いから、早めに降りようぜ」「そうですね」
何だか嫌な予感がしてきて、二人は小声で相談し始めた。




