ハッカー殲滅作戦(二百六十四)
「ヘリは何?」『川重のOHー1です』「それかぁ」
まるで『他のなら良かったのに』とでも言いたげな感じ。
文字はたった四文字であるが、実際の声として響いたのを正しく表現したならば『あっちゃぁ。そぉれぇかぁぁっ。くっそぉぉ』である。後ろの本部長は、両手で頭を抱えている。
「それって『ハインド』に似てるぅ?」
『似ていません。それに、二人乗りです』
「あっちゃぁ」
高田部長がどうして『ハインド』の名を出して、質問をしたのか。
それは『帝政ロシアのヘリコプター』なのであるが、顧みてそれが『最後に操縦したヘリ』だったから、である。
昔、函館でちょっと『借りパク』したのだ。
ついでに押さえて置くと、最初に操縦したのもソレである。
彼の生涯飛行時間、僅か三分二十五秒。『五分と持たなかった』と言うのは、夜の本部長と一緒だ。
「馬鹿だなぁ。一緒にすんなよぉ」
本部長は渋い顔だ。『失礼なこと』を思い出しているとも知らずに、高田部長の頭をコツンとやっているが、当人は笑っている。反省していない証拠だ。
『マニュアルを入手しましょうか?』
「いや、良いよ。見ても判んないし」
『では、他の脱出経路を探しますか?』
再度聞かれて二人は悩む。
ココだって、いつまで『安全か』何て判らない。それに、探索ルートが見つかっても、それが『絶対安全』とは限らないではないか。
ここは一発逝くしかない。顔を見合わせて、二人は大きく頷いた。
この際、どっちにしろ『破壊』は免れないのだ。覚悟を決めろっ。
いや、気にしているのソコ?
「ヘリで行こう。ルート出して」
『承知しました。えっとぉ、ノートパソコンではないのですか?』
「違う。スティックの奴」
『おっとぉ。そんなんで大丈夫ですか? 面倒見切れませんよ?』
「今はこれしかないんだよ」
『準備が悪いですねぇ。困ったお父さまですねぇ』
グチグチ言っている間に、ディスプレイに『ゴール』の文字と、ヘリの絵が表示されている。そして危険個所が『×印』でだ。
監視カメラと衛星写真で、今確認した結果なのだろう。
次々と『詰所』『トーチカ』『崩壊』『火災』等、表示され続けている。渋い顔でそれを記憶しているのは、今回も本部長ただ一人だ。
「覚えましたぁ? もう良いですかぁ? まだですかぁ?」
次々とミントちゃんに『指示』を出し終わって、高田部長は席を立っていた。そして、背面のスティックPCを引き抜こうと、ヘラヘラ笑いながら言っているのだ。
「黙ってろよっ!」




