ハッカー殲滅作戦(二百六十一)
「違いますよ。もっと『ピチピチ』のですよ」
高田部長が眉をひそめて言うのも無理はない。
それが、相当古いパソコンだったからだ。裏を見れば、辛うじて 『USBポート』がある感じの。
高田部長はパソコンを少し手前に引いて、背面にスペースを作る。
次にポケットから『スティック状のPC』を取り出した。
こんなこともあろうかと、予備として牧夫から一つ、巻き上げておいたのだ。ウシシシシ。
それはもちろん、返すつもりはない。
本部長に取られたジッポーライターの代わりに、今日の所はこれで我慢しといてやる。感謝しろよ。
パソコンの電源をON。良し。入った。入ればこっちの物だ。
しかしUSBポートは、ご丁寧にも『蓋』で塞がれていた。
勝手に『USB機器』を接続させない様にするためだ。今、目の前にいる『高田部長』みたいに。
だから別に、珍しいことではない。普通の会社なら常識。ましてやここは『機密事項』を取り扱う『極秘の研究所』なのだから。
まるで『ハイハイ』とでも言うように、躊躇なくそれを引き抜くと、USBポートにスティックPCを差し込む。
「使えるか?」「駄目ですね。殺されてますね」
通電しない。スティックPCのLEDランプが点灯しないのだ。
本部長は渋い顔をしたのだが、高田部長はもう一度ポケットに手を突っ込んだ。
何が出て来るのか。それは『十徳ナイフ』だった。
その中から『プラスドライバー』を引っ張り出した所で、本部長にも『次に何をするか』が判ったのだろう。
パソコンの上にあるディスプレイを、そっと持ち上げた。
共同作業よろしく、高田部長が台になっていたパソコン本体を引っこ抜く。
ガシャンとキーボードが机上から落ちたが、それは音が出ないように足で受け止めた後、一旦放置だ。
ドライバーでパソコンの外蓋を止めるネジを緩めて行く。
緩めた端からネジを放置して、まるで『元に戻すつもりはない』ことを物語っている。
蓋を外すと中の基盤を確認する。
背面のUSBポートから伸びる線を指で辿り、やがて小さな『ジャンパースイッチ』に辿り着く。
金属の針が二列に並んでいるもので、『極まれにしか操作しない』けれど、『一応選べるようにしておこう』というものだ。
ONとOFFは小さな『器具』で針の二列を繋げば『ON』、離れていれば『OFF』となる。
「それだろ」「ですね」
一つだけ小さな『器具』が、ずらして『片方だけ』に挿してある。
良くあることだが、失くすといけないので片方だけ挿して固定しておく。常識だ。つまり、今は『OFF』の状態であるが、『何かの時』に、再び『ON』に出来るようにしてあるものなのだ。
例えば『今、この時』の様に。そうに違いない。偉いぞ担当者。
ジャンパースイッチをONにすると、蓋を開けたまま『空冷』の状態で電源をONにする。
すると今度は、見事にUSBに通電したようだが、拍手はない。
それもその筈。本部長はディスプレイの置き場所を探し始めたのだが、適当な場所がないからだ。
コードが届く範囲と思いながらキョロキョロしている。
「あぁ、ちょっと持っていて下さい。あんま揺らさないで」
まだ何もしていないのに、高田部長がマジ顔でほざくので、本部長は頭に血が昇る。
「蓋ぐらい閉めろよっ!」「えぇー。別に良いのにぃ」
「俺が良くないんだよっ」「またぁ。自分さえ良ければですかぁ?」
「それはお前だろっ」「私は『世の為人の為』ですよぉ」
笑いながらパソコンの蓋を閉めている。もちろんネジは放置だ。
パソコンの上が平らになると、そこに本部長が『よいしょっとぉ』と、ディスプレイを置く。
手をパンパンと叩いて、自分のシャツに付いた埃も叩き落す。
「腰が悪くなったら、どうするんだっ!」「またまたぁ」
「今日は結婚記念日だったんだぞっ!」「あぁあっ!」
顔を真っ赤にして怒る本部長を指さして笑った。




