ハッカー殲滅作戦(二百五十九)
出口を求めて施設内を旅するのも、ちょっと飽きて来た。
ここは『初心』に帰って、さり気なく独房に戻るの一計だ。
何しろ『BBQ広場』で罠に捕らえられ、身動きが取れなくなっている『民間人』が多数。
その救助に『救急車』の一台や二台来る筈だ。
日本国の住民なら『そんな考え』も、思い浮かぶかもしれない。なにしろそこは『平和な国』らしいので。しかしここは違う。
権力と暴力が町中にはびこり、陰謀と隠匿に包まれている『大日本帝国』なのだ。だから、救急車は来ない。消防車も来ない。
もちろん『警察』なんて、全く期待できない。
陸軍にだって、消防組織はある。病院も、そして刑務所も。全てに於いて『独立して行動できる集団』それが軍隊なのだ。
そんな軍隊の『巣窟』に忍び込んで暴れたらどうなるか。
この際『どっちが先』とか、そう言うのは『現場』では関係ない。銃口を向けた『一般兵』に訴えた所で、迷ってでもくれたら『めっけもの』だが、ズドンと食らってお陀仏に決まっている。
本部長は建物沿いを素早く移動する。
館内でかなりの数の『足音』が鳴り響く。時折聞こえる声も、随分と殺気立っている。
『何処に行きやがったっ』「ここでーす」
『見つけたらぶっ殺す』「前からどうぞー」
館内から聞こえて来る声に、高田部長が小声で答えているのはムカつくが、本部長と同じことを思っているので仕方ない。いや、撃つのは『後ろから』にして欲しいのだが。
何度目かの集団が立ち去って、本部長は館内を覗き込む。そして左右を確認する。
足音はどんどん遠ざかるのみで、近付いてくる音はない。
「行っちゃいましたぁ?」「あぁ」
安全を確認した頃に、ひょっこり出て来るのが高田部長やり方だ。もう体に染み付いている。
本部長はそのまま窓を開けて、壁をよじ登って中に入る。ストンと落ちると腰を落とし、再び左右を見て警戒している。
するとそこに、逆Uの字に『金魚の糞』がうねって付いて来る。どうやら本部長は、もよおしてしまったようだ。
違った。やっぱり高田部長である。
「何か見つけました?」「あぁ、そこの扉見て見ろ」
指さした扉に『×』マーク。『調査済』の印だ。
「あぁ、そこで『ご休憩』ですかぁ?」
両手をクロスさせて胸にあて、くねくねと腰を振る高田部長がウインクして口を窄めている。
「ざっけんなっ」
首をチョンと縦に振って本気で怒っている。流石に苦笑いだ。




