ハッカー殲滅作戦(二百五十三)
素早く本部長が地上に這い上がると、姿勢を低くして辺りを警戒している。それにしても『出た場所』が何処だか、きちんと把握しているようだ。
「早く上がって来いっ!」
まるで横断歩道を渡る前の様に、左右をちらっと見たかと思うと、最後はマンホールを覗き込む。
そこで見たのは、高田部長の変顔だ。素早く足元に転がるコンクリート片を、マンホールに蹴り込んだ。
その行為に、微塵の迷いも後悔もない。
「何するんですかぁ。よいしょっとぉ」
やはり『生命力』だけは、人並み以上にあるようだ。
それでも『おでこ』を自分でなでなでしている。多分『マンホールから無事脱出できた自分』を、褒めているのだろう。
もし、高田部長を殺るとしたら、今を置いて他にない。何しろ本部長が警護しているのを確信し、何の躊躇もなく、何ら警戒することもなく『ひょっこり』顔を出しているからだ。
このタイミングで眉間に見事スナイプ出来ればの話だが。
しかし、どうやら安全らしい。高田部長もマンホールから這い上がって、本部長の陰に隠れた。
まるで『スナイプするならこちらからどうぞ』と言った感じであるが、本部長もそれ位は考えている。
スナイプされたらひらりと避けて、後はどうなろうと関係ない。
「罠、発動しましたね」「あぁ。全部逝ったな」
本部長は、爆発した回数まで把握していたらしい。
二人は建物沿いに、発動した罠とは反対側に走り始めていた。
建物の角まで来て、一度、本部長が止まる。
左手を出して『隊列停止』の合図を出しているが、今回も部下は高田部長一人である。
しかしその高田部長が、再び背中にドンとぶつかった。すると押し出されて本部長が前に出る。
「お前、いつもいつもっ! いい加減、ぶっ殺すぞっ!」
でかい声。何かを警戒して止まった筈なのに、これでは『隠密行動』の意味がない。
それに早く起き上がって、壁際に隠れなくて良いのですか?
「あぁ、すいません。急に、止ぉまるからぁですぅよぉ」
緊張感なく、両手を前に出してニヤニヤしている。
こいつ、もしそこで本部長が『ハチの巣』になったら、それはそれで『面白い』と思っているだけだ。
「軍人じゃないんですからぁ。勘弁して下さいよぉ」
こんな時に『民間人アピール』なんかして。民間人が戦争に加担して人を殺した、それはそれで『殺人罪』になってしまうのに。
「ちっ。しょうがねぇなぁ。今回だけだからなっ」
どうやら今回も、許して貰えたようだ。法の秩序とは、一体。




