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顔パス(十二)

「ねぇねぇ、琴美のお父さん、何処に勤めてるの?」

 うどんを飲み込んだ絵理が、興味深そうに琴美に聞く。聞かれた琴美は頭を捻る。

「うーん。何て会社だっけぇ?」

「え? 知らないの?」

「何で?」

 絵理と美里が同時に聞く。楓は笑っている。


「あんまり家で、仕事のこと、話さないんだよねぇ」

 苦笑いで答える。そんな表情を楓が覗き込み、悪戯っぽく聞く。

「やばい仕事?」「違うよ!」

 それはない。絶対ない。


 家で見る父の姿は、限りなく馬鹿に近い間抜け。もしそれが、家でのみ見せる『仮の姿』であったなら。いや、ないない。


 しかし、琴美は思い出す。いつも『暗証番号』を入力する時に、思い出すのは、悪戯を仕掛けて来る父の笑顔だ。


「暗証番号を打ち込むやつあるじゃん?」

 急に話題を変えられたと思ったのか、一同不思議な顔をするが、一応頷く。耳が気持ち大きくなっている。


「あれ作ってる所。マーク、見たことあるから」

 そう言って『締めのうどん』の、締めを啜る。


「え? 嘘……、NJS?」

「まじで? あのNJS、なの?」

「伝説の会社じゃん……。しかも、ハッカー?」


 NJSは、日本情報処理株式会社の略称である。

 東京のセキュリティシステムを『ハードウェア』『ソフトウェア』の両方で支える情報系の会社で、日本に数ある情報系会社の中で、トップファイブに入る。しかし、名前を知る者は少ない。


 東京はセキュリティの観点から、セキュリティシステムを、一社に任せてはいない。

 公開された仕様を満たすシステムを『十五社』選定して購入。それを『十二のブロック』に分けた地域に、手作業の抽選で選択したシステムを、実際に導入。しかも、三カ月毎に再抽選するのだ。


 三人の真顔が怖い。琴美は、ゆっくりとまばたきをしながら、うどんを啜り続ける。

 そんな様子を急かすことものなく、三人が琴美を見つめ、次々と質問をぶつけて来る


「東京を裏で操ると言う、十五社の一つじゃん」

「年収いくらなの? 一千万とか、行っちゃう感じ?」

「やっぱり? でも、どうして東京に、住んでいないの?」

「で、何系の仕事? 偉いの?」

「やっぱり、情報系でしょ?」

「だよね。ハッカーだもんね」

「もう、どこでも『顔パス』じゃん。そうなんでしょ?」

「でも、ハッカーって、やっぱり、お宅っぽいの?」

「あー、そんな感じなのかな。部屋中、何かの部品だらけ?」

「掃除しに入ると『触るなっ!』って怒るタイプ?」

「ピザとコーラ、結構食べるの?」

「あー、好きそう。だよね? どこのピザ?」

「え、じゃぁ体重、百キロ行ってるの? 体重計二個使うの?」

「凄いね。もしかして、お母さん、そっち系が趣味?」

「それで、家から一歩も出ないの?」

「そもそも、どこで出会ったの?」

「ネットとか? デートもバーチャル?」

「あー、そうかも。で、どうやって釣り上げたの?」


 琴美は既にうどんを飲み込んでいたが、質問が終わりそうにない。琴美は深皿と箸をテーブルに置き、おもむろに両手を前に出し、『お静かに』の顔をして上下に振る。

 三人は質問を止めた。


「お父さんは、太っていません!」

 とりあえず、最後の方の質問に答える。

 三人は揃って「うんうん」と頷く。


「お母さんの趣味は『デカンタ刑事デカ』です!」

 思い出して、母の趣味も訂正する。そこ、重要。

 しかし、三人は、一気にしゃべり出す。


「お母さんの趣味はイイから!」

「お父さんが趣味だから、ちがっ! お父さんの仕事!」

「ハッカーって、やっぱり『いっちゃってる』感じなの?」


 琴美は再び、両手を前に出して上下に振ったのだが、どうやら今度は、止まりそうにない。

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