ハッカー殲滅作戦(二百五十一)
本部長は思案に暮れる。高田部長はこんなとき『ギャーギャー』煩いだけ。何の役にも立たない。
まぁ、いつものことだ。
「早く退けて下さいよぉ。メガトンパンチ一発で行けますってぇ」
「さっき『ヘリの音』も、してたじゃないですかぁ」
「もう、きっと敵が増えちゃって、今頃ワシャワシャしてますよぉ」
やっぱりオロオロしながら煩いだけだ。一方の本部長は、冷静に尚も考え続けている。
チップの回路設計者でもある本部長には、幾つかの『特技』が存在する。それはもう『職業病』とも言える代物だ。
さっきノートパソコンに表示された『建物の設計図』であるが、それを正確に記憶している。
全てのフロア、もちろん地下通路も含めてだ。
チップの回路が『とても細かい』というのはご存じだろう。
しかしそれが、『多層構造』になっていることまでご存じだっただろうか。
CPUの回路図と建物の設計図。どちらがより『簡易』かは、言うまでもない。
だから『この倉庫の床に穴を開けろ』と、不思議がる毘沙門天の首を絞めて取り上げた『手榴弾』。それを倉庫に投げ込んだのは、誰を隠そう本部長その人なのだ。
「こっちに来い」「何処行くんですか?」
返事はない。逆向きに走り始めた本部長の後ろを、金魚の糞よろしく高田部長が付いて行く。
すると再び、本部長が立ち止まる。
「ココを登るぞ」
どうやら『梯子があるはず』と思いながら、ジッポーで付近を照らしている。途中で闇に照らし出された『高田部長の変顔』に、思わず顔をしかめつつ。
確かにココなのにと思いながら、痺れを切らす。壁を手探りで探し始めた。すると、小さな突起を見つける。
ツンと出っ張ったその形は、夜に舐めたり吸ったりするものに、そっくりではないか。
本部長は『それ』を、指先で弾くと渋い顔をする。
確かに壁には『昔々ある所に、梯子と言う昇降に使う道具が設置されていましたとさ。終わり』との語り口が相応しい『梯子の跡』が、点々とあるだけだ。
「仕方ない。これで行くぞ」
「えぇー。その『乳首』を摘まんで行くんですかぁ?」
折角言葉を濁して説明していたのに、デリカシーのない高田部長のせいで台無しだ。しかし決定は覆らない。
「本部長に掴まっても良いですかぁ?」
「駄目に決まっているだろうっ! 蹴っ飛ばすからなっ!」




