ハッカー殲滅作戦(二百五十)
本部長と高田部長は、毘沙門天のケツを蹴っ飛ばし、先に行かせた倉庫へと戻って来た。
被せておいた板を退ければ、床にポッカリと開いた穴。倉庫の床を爆破して、無理やり開通させた地下への入り口だ。
飛び降りればその先は、レンガ造りの古い地下通路である。
あの野郎、いつもグダグダ言うばかりで、『助け舟』なんて出した試しがない。一言、『良いから好きにさせろっ』と一喝して、先に行かせたのだ。
「ライター寄越せ」
本部長が穴を覗き込みながら、右手を差し出す。
「またですかぁ? ちゃんと返して下さいよ?」
渋々と差し出すジッポーライター。京子に惚れた本部長に『禁煙』を勧めた本人としては、貸すのも止む無しだ。
「うるせぇな。ライター位でライタライタ言うなっ」
全く言葉からして『冗談』にもなっていない。言い返す前に、本部長は、もう飛び降りていた。溜息混じりに、高田部長も後に続く。
そんなこと言ったって帰って来た試しがない。前科有り有りだ。
ある時は『ガリソンを振り撒いて放り込んでしまった』り、またある時は『ダイナマイトに着火してライターの方を投げてしまった』り、色々だ。
火が付いたダイナマイトで、タバコの火を点けるのは止めれ。
完全に『火を点ける順序』と『投げる物』が違っている。
とにかく、高田部長の手を離れたジッポーは、もう二度と帰っては来ないのだ。
「もぉ。『青春』じゃないんですから」「ほぉ」
火を点けて、顎の下で揺らぐ炎に照らされた本部長の笑顔が、やけに眩しい。とりあえず、その火を頼りに先を急ぐ。
すると『目印にしておけ』と指示しておいた、『ピアノ線で仕込んだトラップ』が見えて来た。そのままになっている。
どうやら奴らは、先に『脱出』出来た模様。
ならば、一仕事終わったからには長居は無用。後に続くのみ。
ホップ・ステップ・ジャンプと、三つの罠を飛び越えて、所々崩れた場所もある古い地下通路を進む。
走りながら本部長は、『違和感』を覚えていた。
本来『ある筈のもの』がない。
そして、角を曲がろうとした所で立ち止まる。
「あたっ。また罠ですか?」「おい、押すな」
後ろから付いて来ていた高田部長が、本部長の背中にドンと当たった。二人は顔を見合わせる。
目の前に、突然『壁』が現れていた。道理で『風』がない訳だ。




