ハッカー殲滅作戦(二百四十五)
「何が起きたんだ? 最初から説明しろっ!」
少佐の大声が所長室に響くと、大尉以外の三人が飛び上がる。
三人は顔を見合わせると、一番若い男に『お前が言え』とばかりに視線を送る。送られた方は明らかに『えぇぇ』な顔だ。
それでも、その男の白い研究服が一番汚れていて『血』なんかも付いている。きっと『何か』を見てきたに違いない。
そう思って少佐は、じっと報告を待っている。
どうやら所長は『逃げなかった』のは褒めてやるが、それ以外に何も『褒める所』はないようだ。
「まず最初に『迎賓館出入口』から侵入されまして」
男が説明を始めたのは、意外にも『一番侵入不可能な場所』からだった。少佐は驚いて顎を引き、言葉を詰まらせる。
驚いて『何故だ』と言葉を発しそうになったのだが、それを堪えたのだ。説明が長くなりそうだからだ。
「ロックされていた鋼鉄製の扉も、難なく突破して館内へ」
迎賓館出入口から館内に続く通路には、万が一に備えて防御設備があったのだが、どうやらそれも無力だったようだ。
「その後、第五研究棟、第四、第三、第二、第一と、順番に占拠」
少佐は机上から思わず顔を上げ、説明する男の顔を見た。どう見ても『嘘』を付いているようには見えない。
研究棟の入り口には、厳重な警備が敷かれていたはずだ。それを五カ所も簡単に抜いて占拠とは? 一体、何人で来たのだ。
ハーフボックスの定員は、たったの二人なのだが。
少佐の頭の中に、謎がうごめいている。
しかし男は、説明を止めない。命令通りに進めるだけだ。
「銃撃戦が、ココと、ココと、ココで始まり、応戦しましたが」
「敵は『武装』していたのか?」
思わず少佐は口を挟んだ。後悔したがもう遅い。これだけの範囲を制圧できる能力を持っているのは、軍隊以外あり得ない。
「はいそうです。しかも、我々と同じ、日本人でした」
やはり男は『その点』については驚いていない。むしろ『日本人』の軍組織に襲撃されたことの方が驚きだった。
「武器庫A、B、E、資材室A、C、D爆破、研究室101爆破」
説明に戻った男は、時系列順に爆破された箇所を右手で指しながら話を続けている。
良く見ると机上の配置図に示された『×印』と時刻は、爆発した箇所と時刻を表しているようだ。
ちょっと待て、何だこの爆発の多さは。
「正、副サーバー室も爆破され、各所のMDFも爆破されました」
「配電盤は無事なのか?」「判りません」
少佐は渋い顔だ。
「データのバックアップは?」「飛びました」
「そうか。飛んだか」「はい。十五年分の全てが」
少佐は顔を上げて目を剥いた。




