ハッカー殲滅作戦(二百四十四)
「現在、館内の状況は静かになりつつあります」
右手で全体図をぐるりと示し、俯瞰して言うには、そうは見えない気がする今日この頃である。
少佐は『うそぉん』と思って所長を睨む。正面玄関から来た訳ではないのだ。あちこち見て来ているんだぞ?
すると所長は、その少佐の一睨みで一気に汗を吹き出した。
彼にしてみれば、今の一睨みはこうだ。
『てめぇ、ふざけたこと抜かしてやがるんじゃねぇ。
これをどう見たら静かなんだよっ!
その目は『節穴』かっ!
えぐり出して本当の『節穴』にしてやろうかぁ?
頭かな? 頭が悪いのかなぁ? 心臓かなぁ?
何だったら直ぐに開いて『診て』やろうかぁ?
こっちはいつでも『一式』持って歩いてるんだからなっ!
ゴルァ。アァン? どうなんだ? 答えろっ!』
少佐は『普段の行い』とその『性格』から、良く誤解され易い。
「第一研究棟は制圧、第二研究棟も制圧、第三……」
「第一研究棟は爆発しましたよ?」「えっ?」
所長の説明に口を挟んだのは大尉だ。所長は驚いて顔を上げ、大尉の顔を伺い、声を詰まらせた。
恐る恐る少佐の方を見ると、目が合った少佐が黙って頷いたではないか。馬鹿な。そんなことが?
「上空から、ヘリで目撃しました」
大尉の声がして、再び所長は大尉の方を見た。
大尉は軍人らしく、左手を後ろに『休め』の姿勢のまま、右手を伸ばして第一研究棟を人差し指でトントンと叩く。
そしてそのまま右手を握り締め、指先を上に向けると『ドカン』と何度も指を広げたり、閉じたりして『爆発を表現』しながら、回数を示して見せる。
すると所長を始めとした三人が『初耳』とばかりにざわつく。
「あの音はやっぱり。回数も同じだ」
「そうだな。爆発の方角も一致する」
白い研究服を来た男が二人、『音と方角と回数』については合点した様だ。
「しかし、研究棟に『爆発物』なんてないのに」
「うむ。何もないのに、爆発なんて」
再び考え込んでいる。搬入された『物品』で『爆発しそうな物』を検索しているのだろうか。
「火葬場の隣も爆発しましたよ」
大尉が再び指さした。そして今度は両手で『大爆発』を表現する。
「あっ、そこはっ」「ガスだっ! ガスタンクだっ!」
二人は右手で拳を作り、左手とパチンパチンとやって、それについても合点した様だ。顔も明るくなったが、直ぐに渋い顔へと戻る。
合点しても嬉しいことではないし、少佐の目が怖かったからだ。




