ハッカー殲滅作戦(二百四十一)
何かの破片がヘリの縁に当たって音がする。防弾なのだから、ちょっとくらいなら何てことはない。
しかし、その何かがあったら困る。だから井学大尉は、慎重にならざるを得ない。思わず再確認する。
「危険です。本当に降りますか?」
「何処でも良い! 早く降りるんだっ!」
石井少佐は医者ではあるが、こと『ヘリの扱い』関しては素人である。だから今、『どれだけ危険なのか』について、井学大尉とは随分『認識の差』があるようだ。
しかし、『人心の扱い』については玄人である。
返事もなく必死で着陸地点を探している井学大尉に、無理を強めに言ってしまったと反省する。
井学大尉の確認は、石井少佐をおもんばかってのことなのだ。
ニッコリ笑うと前に座る井学大尉の肩を叩き、一言付け加える。
「地雷原に降りちゃダメだぞぉ?」
「フッ、はいっ。もちろんでありますっ!」
今度は井学大尉から返事があった。互いの顔は見えないが、笑っているのは判る。
すると煙の間から、屋上のヘリポートが見えた。それは窓のない丈夫なコンクリート造りの建物でもある。
例え階下で爆発が起きたとしても、ヘリポートまで吹き飛ぶようには見えない。
それに本来、この施設に建物を崩壊させる程の『爆発物』なんて、ある訳がないのだ。誰かが持ち込んだに違いないのだ。
「あそこにしましょう!」「よろしく頼む」
声がして直ぐに、井学大尉は操縦桿をグッと倒す。そして煙の間に割り込んで行く。
機体を左右に振って進路を巧みに変え、最後は少し機首を上げてスピードを殺す。そして見事な着地を決めた。
直ぐにキャノピーを上げて振り返る。石井少佐は、もうヘルメットを外して降りる準備を整えていた。
「行くぞっ!」「はいっ!」
二人はまだローターが惰性で回っている間に降り立った。
そして状況確認のため、対策本部がある筈の『所長室』へ向かう。
気が付くとそこには『玉ねぎの腐った臭い』が微かに漂う。
「何だ? ガスか?」
「そうですね。くさっ。この匂いは『ガス漏れ』の臭いですね」
二人は歩みの速度を緩めた。顔を見合わせて渋い顔をする。
仮にこの爆発が『ガス漏れ』だったとしよう。しかし、こんなに施設全体に広がり、館内に充満する前に誰か気が付くはずだ。
夜間ならいざ知らず、今は昼間なのだ。訳が判らない。
屋上から館内に入る。二人は直ぐに『違和感』に気が付く。
人の気配がまったくない。その上、非常ベルもスプリンクラーも作動していない。消火栓も消火器も使われた形跡がない。一体。




