ハッカー殲滅作戦(二百四十)
元々市ヶ谷にあった防疫給水部は、青山公園の隣にある『赤坂プレスセンター』に引っ越した。
台地の上にある青山公園と、近隣の青山墓地は『屋根』がなく、雨が降った時は人通りがない。
赤坂プレスセンターのビルは青山公園の『隣』と言っても、それは台地の下である。青山公園の高さまである人工地盤の下から『ニョキッ』とそびえる高層ビルだ。
南側はビルを支えにして、強化ガラスの屋根で覆われている。北側は屋根がなく、そこはヘリポートだ。
車寄せならぬ『ヘリ寄せ』があって、雨が降っても濡れずに乗れる様になっている。
そしてそのまま、大空に向かって飛び立つことが可能だ。
「テイクオフ」「よろしく頼む」
井学大尉が操縦し、石井少佐が乗り込んだヘリコプター『OHー1』のローターが高速回転を始める。直ぐに風を巻き上げて、東京の空に舞い上がった。エンジンは絶好調だ。
直ぐに見えてくるのは、広大な青山霊園。そしてその先には『代々木練兵場』が見えて来る。
そこを左手に見ながら北西に向かうと、新宿駅西口に広がる防疫給水部の第七研究所が見えて来た。
何度も出掛けていて、敷地は広大だが建物の配置まで覚えている。
「少佐ぁ、火葬場の隣からぁ煙が上がっていますぅ」
井学大尉が大声で叫ぶ。石井少佐は『聞こえているよ』と思いながらも、それは口にせず頷いた。
それは『ボヤ』と呼ぶには煙が大きすぎる。何か『とてつもない事件』が起きたに違いない。
『更地にされてしまうぞっ!』
冗談だと思っていた少将の言葉を咄嗟に思い出して、石井少佐は青ざめる。舌打ちした、その瞬間だった。
『ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ』
細長い建物の一つが、端から炎を吹き上げながら連続的に大爆発を起こしたのだ。
遠くて見えないが、窓ガラスなんて木っ端みじんに吹き飛んだに違いない。黒い煙が、あっという間に第七研究所を包み込んで行く。
「少佐っ! 危険ですっ! 近付きますかっ!」
「当然だっ! ヘリポートじゃなくても良いから着けろっ!」
「判りましたっ! お任せ下さいっ!」
どうやら石井少佐に迷いはないようだ。井学大尉も頷いた。直ぐに煙を避け、風上から侵入する進路をとる。
『ドドーンッパラパラパラ』
基地まであと少しの所で、今度は少し離れた建物の一部が大爆発を起こして屋根が吹き飛ぶ。破片が飛び、衝撃波が襲う。
井学大尉は咄嗟に操縦桿を引いて、着陸を中止した。




