ハッカー殲滅作戦(二百三十七)
市ケ谷の陸軍本部では、上を下への大騒ぎになっていた。
情報は錯乱しているが、『花火』が打ち上がったのは、淀橋の731部隊『第七研究所』の様だ。
そこは民間人を含め、一般兵も立ち入り禁止の秘匿エリアだ。『特定の許可』を得た者だけが立ち入りを許される。
だからもちろん、警備は厳重である。
敷地の周りには外側に『水路』という名の水堀と、視界を遮る植林、その先に幅三メートル、深さ十メートルの空堀があって、その先は地雷原だ。
空堀の幅が三メートルならば、『走り幅跳び』に自信がある者なら行けそうな気もするだろうが、実は飛んだ先が二メートル高くなっているので、飛び越えるのは実質不可能だろう。
もちろん随所に鉄条網が張り巡らされていて、そこには高圧電流が流れている。触ったらビカビカと『ガイコツ』になる、あれだ。
そんな施設に誰だか知らないが『侵入者』がやって来て、研究所を荒しまわっていると言う。
「電話も通じないのか?」
イライラしながら、時計と通信士という名の、電話オペレータを交互に睨んでいる。
すると通信士は、再び電話のフックを叩く。
「通じません」
もう嫌になる。一体これで何度目だろうか。
さっきから電話を掛けまくっているのだが、どの部署のどの電話にも応答がない。
しかもそれは『電話線を切られた』のではなく、繋がっているのに『まともな答え』が返ってこない状況なのだ。
『はい。こちら陸軍淀橋研究所、所長秘書室です。ただ(ガチャ)』
また機械音声だ。抑揚の全くない棒読み。さっきの『総合受付』は女、『守衛詰所』は男。今度は女か。何なんだコレ。
違いはあっても、これでは話にならん。
そんな様子を眺めている上官は、もっと渋い顔だ。
始末が悪いではないか。電話代だけが掛かってしまう。これで市内通話五十三回分だ。
こんなんだったら、今年の予算でIP電話を導入し、内線電話にしておけば良かった。
「とにかく、早く何とかしろっ!」「はいっ!」
今の『何とか』に『IP電話の営業を呼べ』は、絶対含まれていないだろう。
本部に駐屯している部隊に、緊急の出動命令は通達済みだ。
担当者は考えて、731部隊の本部に連絡を入れる。今度はさっきまでと違い、スリーコールで繋がった。
『あぁ母さん? 今日はね『タイムセール』に行けそうにない』
どうやら今度は『人間』が出た様だ。話が通じるとは思えないが。




