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顔パス(十)

 琴美が鍋を見て聞く。

「締めは何にする? ごはん? 麺?」

「ラーメンがいいなぁ。余っているのがあるしぃ」

 絵理がそう言って、見渡す。楓が直ぐに反応する。

「えー、お昼もラーメンだったんだよねぇ」

「そう言えばそうだったねぇ」

 琴美も思い出す。パフェとの組み合わせは日光の手前であった。

「じゃぁ、おじや? 誰かごはんある?」

 絵理の問いに、美里が答える。

「炊けばあるよー」

「それは『ない』って言うんだよぉ」

 琴美が突っ込みを入れる。すると、楓が手をポンして言う。


「あっ! 私、うどん、あるよー。美味しい奴」

 それで決定かのように、席を立つ。三人が楓を見た。

「おぉ、良いねぇ。楓が美味しいって言うの、信用できるわ」

「え、もしかして『さぬきうどん』?」

「楓の実家、四国なんだ」

 三人は笑顔で頷く。楓は自分の部屋に向かって歩く。

「細いのなら、確か七~十分位で茹で上がるよ」

 振り返りながら、笑顔で言った。琴美が焦って立ち上がる。

「ちょっと! 楓! 乾麺を鍋に入れちゃ、ダメだよ!」

「え? そうなの?」

 ピタッと止まった楓が首を傾げる。琴美が何度も頷く。

「鍋が、しょっぱくなっちゃうよー」

 楓の表情が、思い出したような笑顔に変わる。


「あー、そう言えば『蕎麦湯』はあるけど『うどん湯』はないわー」

 笑いながら席に戻って来た。琴美もホッとして席に着く。

「私、冷凍しといた『生うどん』なら、あったかも?」

 美里が頭を掻きながら、思い出したように言う。


「おっ、それ『で』いいやぁ」

「うん。『生』なのか『冷凍』なのか判らないけど、いいやぁ」

「だね。その辺の『スーパーのうどん』で、いいやぁ」

 三人共、酷い『いいよう』である。美里は、少し大人だった。


「じゃぁ『私の分』だけでいいやぁ」

 にっこりと笑い、立ち上がった。その表情を見て慌て出す。


「美里様『私の分』もお願いします」

「どうもすいませんでした。『私の分』もお願いします」

「えー、じゃぁ、ついでに『私の分』もお願いぃ」

 約一名、反省していない感じのお願いも混ざっていたが、美里は笑いながら『共用冷凍庫』の方に向かっていた。


 鍋には、その辺のスーパーで買った、生うどんを冷凍保存したものが四人前投入されている。そして、冷え冷えの状態から、再び暖かくなりつつある。

 早く煮えないかなぁと思いながら、掻き回しているのは楓だ。


「楓もお兄さんいるって、言ってたよね。やっぱり軍人さん?」

 美里が鍋を掻き回す楓に聞いた。楓は首を横に振る。


「いやー、家の兄貴は『気象予測管』なんだよね」

「えっ、まじ? すんごいじゃん」

「エリートじゃーん、何それ、聞いてないよ。カッコイイの?」

 絵理と美里が驚いている。それを見て、琴美が驚く。


「へー、『予報管』って凄いの?」

 琴美の質問に、楓は苦笑いである。その苦笑いを見て、美里が琴美を諭すように説明を始める。


「ちょっと琴美『予報』じゃないんだよ。『予測』なんだ。『予報は外しても文句言うな』だけど『予測は外せない』んだ。判る?」

 琴美は目をパチクリしている。

「判らない」

 それを聞いて、里美は渋い顔になり、ちょっとそっくり返る。

「明治時代じゃないんだからさぁ、天気予測を外して『ごめん』じゃ済まないってことよ!」

「あぁ、そういうことぉ」

 琴美が納得して頷いた。

 何だか厳しいなぁ。でも、雨に打たれたら溶けてしまうのだから、それ位厳しくないと困るか。そう思い直す。


「この間、外しちゃって、すっごい怒られたって、言ってた」

 苦笑いで楓が言う。何だか『自分は、そういう仕事はしたくない』という感じが、伝わって来る。

「そうなんだぁ、大変なんだねぇ」

 美里が、まるで楓が大変だったかのように、背中を優しくなでて慰める。楓は『愚痴を聞くのも大変なんだよ』と言いたげに頷く。


「軍でも、研究所でも、どこでも『出入り自由』なんでしょ?」

 鍋の煮え具合を確認しながら、絵理が聞いた。

「らしいよー。何かね、秘密の場所とかでも、どこでも『顔パス』だってー。入れないのは『女子トイレ』だけだってさー」

 そう言って楓は笑った。あと一つ入れないのは、楓の寝室だが。

「流石『エリート』は違うねぇ」

 絵理が感心して頷く。うどんの煮え具合を見ている。

「今度、紹介してよー」

 ダメ元で美里が聞く。しかし、楓は苦笑いして手を横に振る。


「うちの大学レベルじゃ、ダメだって。相手にもして貰えないよ」

「そうかぁ。レベルが違いすぎるかぁ」

「全然、何かね、話が合わないよぉ。私は家族だから話すけどさっ」

 絵理と楓が顔を合わせ、納得して頷く。そして鍋を見る。


「『女湯』は行けるの?」

 そんな質問に、鍋を見ていた三人は、一斉に琴美を見た。琴美は真剣な表情で首を傾げ、考えている。

 ニヤッと笑って、楓が言う。


「行けるよ。今度琴美がお風呂入っている時に、証明してあげるよ」

 それを聞いて、琴美が目を丸くする。

「え、嫌だよぉ」

 楓を睨み付ける。そんな表情を見て、三人は笑い出す。


「あー、何々、琴美は、結婚しても旦那と一緒に、お風呂には入らないタイプ?」

 楓が眉をピクピクさせながら苦笑い。そして琴美を指さしている。

「あらあら、それは将来の旦那さん、残念がるかもぉ」

「そう言うのは、付き合う前に、ちゃんと言わないと、ダメだよ?」

 絵理も里美も、頷きながら琴美を諭す。


「ちぃがぁうぅでぇしょぉっ!」

 何だか恥ずかしくなって、琴美は両手を振って叫んだ。

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