ハッカー殲滅作戦(二百二十九)
突然巨大な爆発音がして、共同溝を走る隊列が止まった。驚いた全員がその場にしゃがみ込む。そして、ビリビリと振動が来る。
隊長と琴坂親子は顔を見合わせた。
「本部長の仕業だな」「ですな」「そうなの?」
牧夫の発言に隊長が同意し、琴美が不思議そうな顔をして、首を傾げている。
「ストレス発散だったりして」「あり得ますな」「そうなのぉ?」
二週目の会話。周りの隊員からも、笑いが零れている。
「大分揺れましたなぁ」「まったく。ご近所迷惑ですなっ」
共同溝は耐震性能が優れている。これ位では、壊れたりはしないだろう。安心して笑っていられると言うものだ。
「ペンギンさん達、こっちに来れるかしら?」
琴美が心配そうに後ろを指さした。『そう言えば』と思ったのか、隊長と牧夫は、暗闇の先を見る。
研究所から共同溝までは『古いレンガ』で作られたトンネルだった。どうやら『昔の何か』を、再利用した配管だったのだろう。
あれが今の爆発で、無事かどうかは定かでない。
「大丈夫でしょ」「ですです。あの二人ですから」
何を根拠にそんなことを言うのか。それでも隊長と牧夫はにこやかに立ち上がった。
おやおや。他の隊員達も『何も言わない』が、物凄く同意するような笑顔で立ち上がる。もう少し心配してあげようよ。
琴美だけが苦笑いで立ち上がった。心配そうに振り返る。
「じゃぁ、行きましょう」「えっ、はい」
隊長に肩を叩かれて視線を戻す。すると琴美を見つめる隊員達は、みな笑顔で頷いている。琴美は隊長の後に続いて、走り始めた。
足元は『知らない誰か』から拝借した、白いスニーカーである。
「大丈夫だってぇ」「本当ぉ?」
牧夫にまで言われて、琴美は逆に心配になる。父がまともなのは、コンピュータのことだけだ。いつも何処か抜けている。
それでも『良い父』であることに、もちろん異論はない。
「あの二人がいなくても、作戦は十分可能だから」「んんっ?」
しみじみと溢す父の言葉に、琴美は思わず聞き返す。
しかし牧夫は作戦のことを、家族であっても触れて欲しくなかった。苦笑いで誤魔化す。そして逃げ足を速める。
「お父さん、会社で何やってるのぉ?」
琴美の記憶にある『働く父の姿』とは、『軽自動車程の大きなプリンタに、紙を入れる姿』であったり、『何かの画面を見ながら、ひたすらエラーを出す姿』なのであった。
もちろん、『元の世界』での話だ。
父に追い付いた琴美は『疑いの眼』で睨み付けたのだが、すっとぼけて答えない父の顔を見て、『軍事関係』とまでは思い至らない。
多分『直接対決』するまで、それには気が付かないだろう。




