ハッカー殲滅作戦(二百二十七)
とりあえず高田部長は、爆破準備に取り掛かった。
逃げ道は本部長が陣取っている扉一つ。窓も高い場所にあって、鉄格子付き。そこから出るのは不可能だ。
「本部長、ちゃんと開けて下さいよっ!」
呼び掛けたが応答がない。寧ろ何だか不吉な音、『バキッ』『ウッ』『グホッ』と、効果音にも似た音がして、最後には『ドサッ』っと聞こえてから静かになった。
いや違う。『パンパンッ』と手を叩く音が聞こえる。
「何だってぇ? 良く聞こえなかったぁ」
本部長の声。高田部長は渋い顔になり、忙しく手を動かしながら扉の向こうに叫ぶ。
「ふざけていないで、ちゃんと聞いて下さいよぉ」
呼び掛けたが応答がない。いや、またまた不吉な音がする。
今度は『ドンドンッ』と勢い良く壁を蹴る音がして天井から埃が落ちて来たかと思うと、直後に『ブンッ』と風切り音。多分。
そして『ゴンッ』と効果音にしては大きな音が。直後に『ドンッ』と両足で着地した様な音が最後にして、静かになった。
いや違う。『壁蹴りは腰に来るわぁ』と呻く声が聞こえる。
「何だってぇ? 良く聞こえなかったぁ」
「だから、ふざけていないで、ちゃんと聞いて下さいよぉ」
「聞いてるだろうよぉ。早くセットしろよぉ。忙しいんだよぉっ」
語尾を強く言った後に、また『ゴンッ』という音。
「四十五秒にセットしますので、直ぐに開けてくださいよ?」
いつも『ナノ秒』単位で会話をしているからだろうか。本部長からの返事がない。
「何だってぇ? 幾つだぁ?」「四百五十憶ナノ秒にセット!」
「長いっ! 二百憶にしろっ!」「えーっ、三百憶!」
「駄目だっ! 二百憶だっ!」「せめて二百五十億!」
「もういぃっ! 俺は行くっ!」「二百憶にしましたっ!」
何だか『予算会議』のようだが、これは爆弾のタイマーをセットするときの会話である。
きっと本部長が『タイマー爆弾』を作ったら、十二桁はゼロが並んだ『カウンター』が必要になることだろう。
ガラッと扉が開いて、鬼の形相で本部長が現れた。
それは『気のいい技術者』としての顔ではなく、部長達を叱りつける、本部長としての顔だ。
「本当に、二百億にしたんだろうな?」
「もちろんですよ。御覧になりますか?」
ニッコリ笑って高田部長が、部屋の一番奥にある配達ロボを指さした。液晶画面はこちらから見えない。
本部長は、入り口付近まで来た高田部長の前に立ち塞がっているのだが、確認しに行くべきか考えている。
「もう、押してますけど?」




