ハッカー殲滅作戦(二百二十四)
荒山は痛みを堪えて動き続ける。選択肢は二つしかない。
動き続けて勝機を掴むか、距離を取った瞬間に、左腰にぶら提げたの拳銃で撃たれるか。そのどちらかだ。
荒山にどれ程の理解があったかは、判らない。それでも、本部長の方も動き続けていた。荒山を睨み付けながら。
今の拳で肋骨をへし折り、内臓まで到達させるつもりでいた。
それが左足から伝わる反発力と、右足のスライド。それに、荒山が飛び跳ねたことで幾分か勢いが相殺されたのが判る。
どうやら、『肋骨にヒビ』程度でおさまったようだ。
次の瞬間、本部長が採った行動は、右足を内側に捻って足場を固め、横スライドを止める。
突き出した右手を強く引き後ろへ。同時に左ひざも曲げて、前に振る。荒山も良く見ていた。右手で防御の姿勢を取る。
構わず勢いのままに体を回転させ、顔だけはクルリと一周回って、荒山の位置を捉えた。左膝が荒山の空を切ったと見せかけて、着地した左足を軸にして、ジャンプしていた右足が荒山に伸びる。
荒山は左足が目の前を通り過ぎ、『避けた』と思っていた。
回り続ける背中から首を目掛けて襲い掛かるチャンスとも、思っていた。だから右手を前に出す。
その瞬間、後頭部に強い衝撃が走って、荒山は広場を縦に転げながら吹き飛ばされて行く。
受け身は反射的に取った。だから半回転して、頭から地面に落下したのにまだ生きている。
それでも、強烈な直撃を食らったことには違いなかった。
蹴られた瞬間、荒山の意識は吹き飛んでいたのだが、飛んで行った先で体を強く打ち付け、その痛みで意識が戻った。
しかし、体が思ったように動かない。
するとそこに、ノートパソコンを持った『もう一人の男』が立っていた。さっきまでペンギンの後ろに隠れていた野郎だ。
荒山は本部長の位置を把握していなかったが、充分な距離を開けられてしまったと理解していた。
グズグズしていると、弾丸が飛んで来る。
咄嗟に『人質』とすべく、男へ飛び掛かかった。
しかしそこに立っていたのは、只の男ではなかったのだ。あろうことか、高田部長である。回転回し蹴りを脳天に食らって、フラフラの男に反応できない訳がない。
「おりゃっ」『ゴンッ』
気合一発。今度は鈍い音がした。
手に持っていたノートパソコンをパタンと畳み、両手で両端を持って、思いっきり振り下ろしたではないか。流石に軍事用のノートパソコンだ。人間の頭を強打したくらいでは、何ともない。
高田部長は崩れ落ちる荒山の腹を蹴とばして、本部長の方へ追いやると、再びノートパソコンを開いた。




