ハッカー殲滅作戦(二百二十一)
本部長が愛する妻を吹き飛ばす筈がない。それは高田部長にも判っていた。しかし渋い顔だ。
「今年こそ、上手く行ったんですか?」「あぁ、そのようだな」
二人は『良かった』と思って頷いた。
結婚記念日の『ドッキリの仕掛け』にしては、毎年大ごとである。
だから本部長は、隣近所に挨拶回りをして置くようにと、妻に言ってあった。
そのために必要な、お茶菓子だって持たせている。
それに、二人にとって荒山は、破壊工作を邪魔する『ただの一人』としか、認識していなかった。
早く殺りたい。殺って、次へ行きたい。
荒山は配達ロボの陰で、素早く動き続けていた。
しかしそれが、何度目かの『盾役チェンジ』をして気が付いたとき、いつの間にか配達ロボに囲まれていた。
全ての配達ロボの目が点滅し、こちらを向いている。
敵の方、前ばかり見ていたので、これも今気が付いたのだが、後ろが壁になっていではないか。遠ざかる逃げ道がない。
しかし荒山は、諦めてはいなかった。荒山にだって、軍人としての意地がある。それに、最強として隊をまとめて来た自負もある。
人質なんて取って『穏便に済ませる』なんて作戦、最初から乗り気ではなかったのだ。
それに、昔の伝説だか、陰の英雄だか知らないが、こんな爺さんに負けるとも思っていなかった。
荒山は89式を足元に置き、両手を挙げて立ち上がった。
「邪魔はしない。見逃してくれっ」
すると配達ロボの目が点滅しなくなった。それが何の合図なのかは判らないが、とにかく話し合いに応じてくれるのだろうか。
「銃を蹴れっ」
配達ロボの陰からペンギンの声がして、荒山は素直に89式を蹴り飛ばし、遠くへと追いやった。
すると安心したのか、ペンギンが右手で銃を構えたまま、ゆっくりと立ち上がる。
両者は再び顔を合わせたが、それは本部家のときより遠かった。
それでも、荒山の顔は火傷を負ったのか、一部赤黒くなっているのが判る。
そしてペンギンは、どこから手に入れたのやら、両腰にホルスターを下げている。
「撃たないでくれっ。俺は、作戦に従っただけだ。頼む」
荒山はそう叫ぶと、両手を横に振りながら肘を曲げ、ゆっくりと前に出す。逆らえなかった『一般兵』としてのアピールだ。
荒山の手が、頭の位置まで下がったときだった。
一発の銃声が広場に響いて、手の動きが止まった。




