ハッカー殲滅作戦(二百二十)
本部長は直後に、配達ロボの反対側に飛び出たらしきケツに向かって、ベレッタの『左子』を発砲した。見事命中。
しかしそれは、どうやら『ダミー』だったようだ。
「ちっ、飛び出しては来ないか」
相手を分析することで、弾を無駄にしてしまった思いを隠す。
きっと高田部長が、おもちゃみたいに無駄撃ちをしていななければ、もっと弾があっただろうに。見ていないけど。
「じゃぁ、動かしますよ」「んん?」
主語がなければ許可もない。それでも、操作はもう始まっていた。
配達ロボの目が明るく光ったと思ったら、全てが一斉に動きだしていた。それはまるで、何かを形造る『フォーメーション』なのだろうが、その全容はまだ判らない。
本部長にとって、今はそれ所じゃなかったからだ。
信じられないことに、目の前にいた守護となる配達ロボも、同じく動き始めていたからだ。
「おいっ! 俺のまで動かすなよっ!」
ウィーンと加速音を残し、配達ロボが走り去っていた。本部長は姿勢を低くしたまま、素早く動き始める。
「大丈夫ですよ。壁ならまだありますから」
真後ろから高田部長に言われて、本部長は『こいつから殺やるか』と思案する。
しかしそれはいつものことなので、子供じみていると打ち消した。
「奴は『荒山』って言うらしいですよ?」
「別に、名前なんかどうでも良いだろう」
吐いて捨てる。やっぱり殺意は消えない。
素早く移動を続ける配達ロボを操作しながら、何を余計なことをしているんだ。さっさと『起爆スイッチを押せ』と思う。
「荒山っ!」
突然、自己紹介もしていないのに、名前を呼ばれて荒山は驚いた。
しかし、こちらも負けてはいない。直ぐに名前を叫ぶ。
「何だ、ペンギンッ!」
残弾数が少ないのは判っていた。だから、急に動き始めた配達ロボの陰で、姿勢を低くして相手を睨み付ける。
相手は年寄。どう見ても辛そうだ。こちらは余裕。これ位の速さなら、追従できないこともない。
それに、ペンギンも残弾が少ないのだろう。左手を床に付けてバランスを取りながら、右手だけでこちらを狙っているではないか。
それでいて狙いが定まらないのか、一発も撃ってこない。
「京子は、妻は解放したんだろうなっ!」
本部長の問いの後、答えを待っているからだろうか。ウィンウィンと喧しく唸りを挙げていた『配達ロボ』の動きがピタリと止まり、広場は水を打ったように静かになった。
「お前が、跡形も無く吹き飛ばしたんだろうがっ」
その言葉に、本部長はニヤリと笑った。




