ハッカー殲滅作戦(二百十九)
本部長に引き倒されながら、高田部長は『プランB』に作戦を変更する。
直ぐにファンクションキーを押して、登録しておいたプログラムを起動した。すると、配達ロボ達が動き出す。
切り替えた画面には、今度は突入してくる男の姿が映っている。顎を引き、89式を構えて突進してくるではないか。
「来ますよっ」「だろうな」
二人は既に、敵が『配達ロボのオプション』の存在を認知していることを理解していた。
どこかの爆発で、偶然生き残ったか、偶然目撃したのだろう。
それはまぁ良い。殺ることには変らないのだから。
向かって来るものは全部殺す。
それが、これだけ同じ釜の飯を食って来ていても、『未だに解りあえない二人』にとって、数少ない『共通認識』であるからだ。
そうこうしている内に、ミントちゃんから報告があった。
高田部長はその報告を見ると、『やっぱり』と思って頷く。自分の記憶と同じだったからだ。
まるで『後はお前、自分で何とかしろよ』という感じで、もう起き上がった本部長が、さっさと配達ロボの陰に隠れた。
そして、右側のベレッタ『右子』の弾倉を素早く交換する。
「あいつ、奥さんに銃をグリグリしてた奴っすよ」
高田部長は『来るっ』と思って、バタバタと本部長の陰に隠れる。ここは、唯一の安全地帯だ。
少なくとも、自分だけは助かる。
「何だって? 本当か?」
「えぇ。ミントちゃんがそう言ってます」
やはり本部長は高田部長の報告よりも、ミントちゃんの報告の方を信じるようだ。合わせた目が語っている。
そかしその瞬間、決定的な動きがあった。本部長が後ろを振り返ったそのタイミングで、荒山が飛んでいたのだ。
「ぶっ殺してやる」
男の決意だ。しかしその言葉とは裏腹に、一番の『必殺ポイント』は、既に通り過ぎていた。
重力関数に従った物体であれば、その動きは完全に予想できる。
それに、空中を飛翔している間は、その軌道は変えられない。
だから、高田部長が『男の来歴』なんかを照会する暇があったら、男の走る速度と足の振り上げ角度から、ミントちゃんに『軌道計算』を依頼すべきだったのだ。
『サイン・コサイン・タンジェント』『パンッ』『当たった!』
こうなっていた筈だ。残念。
ターゲットの男が『どんな奴』なのかなんて、勝負の後に確認すれば良かったのに。これは、勝機を逸したとも言える。
「左側から覗き込んで来ますよ。今っ」『パンッ』
「何外してるんですかぁ。教えたでしょうがぁ」
「うるっせぇなぁ。お前、今、逆から出て来ただろうがっ!」
ほら。外したのを人のせいにして、喧嘩が始まってしまった。




