ハッカー殲滅作戦(二百十六)
銃声がして、銃弾が高田部長のつま先をかすめた。思わず足を引っ込める。
何発かはご遺体に当たったようだ。死体に鞭打つよりも酷い。
「おいっ。89式だ。誰かいるぞっ」
音で判ったのだろうか。高田部長の肩を本部長が引き寄せて、後ろに下げる。
ご遺体から金品と武器を漁るのは、もうちょっと後になりそうだ。
その時、高田部長は買ったばかりの安全靴に、穴が開いていないのを確認していた。大丈夫。穴は開いていないようだ。
本部長は両手にベレッタを持って、壁際に立つ。そして、ヒュッと一瞬だけ角の向こうを覗き込む。
『パパパパパパッ』
素人か? 狙いが定まっていない。それに、反応も悪い。壁の向こうに消えたのに、それからまだ三発も撃った。
しかし、本部長は油断しない。もしかして、それが奴の『作戦』かもしれないからだ。
信じて良いのは機械だけ。人間なんて、誰も信用できない。
それは本部長の想いだ。その中にはもちろん、『自分』という人間も含まれている。だから、決して油断しないのだ。
「はい。危ないですよぉ」「んんっ?」
後ろから『コツン』と何かが当たって、本部長は振り返った。そこには一機の『配達ロボ』が迫っている。
「俺を殺す気かっ!」「まだですよぉ」「おいぃっ」
やっぱり本部長は『誰も信用できない』と思いながら、配達ロボに道を譲る。
どうやら高田部長は、センターコンソールで配達ロボを操る、『遠隔操作モード』に切り替えたようだ。
ご遺体が転がっている所を巧みに避けて進み、角へ向かう。
嫌な予感がして、本部長は後ろに下がる。
一方の高田部長は、画面を凝視していて操作に夢中だ。それに気が付かない。
「フンフンフーン。お届け物デース。ハンコ下さーい」
高いラジコンを買って貰った子供のように、ご機嫌である。
本部長は、配達ロボが角を曲がって行くその瞬間に、高田部長の襟をグッと掴んで後ろに引き倒す。
そして、自分自身もその場に伏せて頭を守る。
高田部長にも、その行動の意味が判った。
だから『あっ』と叫んだだけで文句も言わず、むしろノートパソコンを守るように倒れ込む。
画面に向かって、89式をぶっ放す男の姿が写っていたからだ。
『パパパパパパッ』『ドッゴーン』
配達ロボが銃弾で破壊されたことで、自動的にオプション機能が作動したのだろう。その場で爆発し、部品が飛び散った。




