ハッカー殲滅作戦(二百十二)
守衛に『誰も敷地から出さない』ように念を押して、先を急ぐ。
守衛だって陸軍の軍人だ。怪しい奴が来たら銃で威嚇したり、応援を呼んだりすることだって出来るだろう。
まさか軍隊なのに、街での争いごとは『警察の管轄』とか言わないよね? まだ何も判らないが、多分『非常事態』なのだから。
法的根拠は抜きにして、荒山は車を走らせる。
構内の車道は、鉄格子の壁に囲まれている。そこから見える範囲だけでも、荒山が見た光景は、常軌を逸していた。
庭とは言い難い只の広い原っぱに、もぞもぞと動く人影が見えた。
車の窓が閉まっているので『呻き声』までは聞こえないが、大合唱になっていることだろう。
まるで、人間ドックから抜け出て来たような格好の男女が、足を何かに挟まれて、動けなくなっている。
一番外側の高いフェンスの下には、幾つか『黒焦げの何か』が転がっている。車を止めて確認はしない。
さっきから走る構内道路の横に、一定間隔で『高電圧危険』の看板がある。黄色い三角マークと、目立つ赤い字だ。
それと同じ模様の看板が、遠くのフェンスにも掲げられているのが見えていた。そっちが『何て書いてあるのか』は知らない。
ペンギンの搬入口へと向かう下り坂が見えて、そこに車を止める。
車を降りると、後部座席のドアを開け、椅子の裏に隠しておいた89式と弾倉を取り出す。そして車は放置して走り出した。
坂を下りた先にあるペンギンの搬入口は、当然のように施錠されていた。しかしそれを89式の連射で鍵を壊す。
火花を散らして開錠すると、荒山は地下牢内に飛び込んだ。
辺りは暗い。電気が消えているからだろう。非常灯も点いていないのはおかしい。
開けっ放しの扉から差し込む『薄明り』だけが、廊下を照らしており、荒山の影が目の前に見えている。
誰の気配もない。一見すると何でもないようだが、それはやはり『誤認』と判る。
廊下に転がっているのが『鉄の扉』と判ったからだ。それは中央が膨らんでいて、蝶番が引きちぎられている。
「あり得ない。誰が来たんだ? 何だこれ?」
チョンと足で蹴る。それ位ではビクともしない鉄の扉だ。
ふと見た、すぐ傍の『同型』は、建築当初からの姿を留めている。当たり前だ。じゃぁこれは、何を意味する? 荒山は顔を上げる。
隣の隣、五メートル先の壁に『妙な暗がり』を発見して、直ぐに理解した。これは、そこから飛んで来た『鉄の扉』なのだ。
荒山は『扉の飛行経路』を想像しながら、足元の扉まで視線を動かして、もう一度良く観察する。すると、一つ発見をした。
それは、この鉄の扉が『牢内からの力によって破壊されている』ということだ。血の気が引いた荒山は、思わず89式を握り直す。
「一人で脱出したのか? 冗談じゃねぇ。化け物かよ」




