ハッカー殲滅作戦(二百十)
本部家のリビングは、跡形も無く吹き飛んでいた。二階を支える柱が鉄骨だったからか、崩壊こそしていないものの廃墟である。
「あの野郎ぉ、人質ごと爆破させやがって。ふざけんなっ」
ガラガラと音がするからガラクタ。その下から、傷だらけの男が立ち上がった。本部家強襲部隊の隊長であった荒山だ。
あのニトロの爆発で、生きているとは運が良い。
荒山は体に付いた瓦礫を払いながら、直前までの事態を思い出す。
部下は俺が見ている前で、全員『ペンギン』こと本部長に殺られてしまった。何て奴だ。
しかし、俺が本気だと判ったのだろう。妻・京子のこめかみに拳銃をグリグリしたところで観念し、遂に捕らわれの身となった。
正直ホッとした。それでもそんなのは、ほんのつかの間だ。
あろうことか、奴は『自爆装置』を起動したのだ。妻がいてもお構いなしに。何だか爆発の直前に『結婚記念日おめでとう』とか『盆踊り』なんて見た記憶もあるが、意味判らん。
荒山は、荒れ放題の元・リビングを見渡した。何だか壁まで吹き飛んで、部屋全体と言うか、一階全体が良く見える。見え過ぎる。
そこに、ポツン、ポツンと、部下の死体が黒焦げになって、転がっている。それを見ると、自分が何故軽度の火傷で済んだのか、奇跡としか思えない。
ふと思い出して、京子の遺体を探す。しかしそれは、何処にもなかった。爆発の中心にいたのだ、消し飛んでしまったのだろう。
本部長、何を優先すべきか決めているのだろうか。恐るべき男だ。そう言えば妻も、最後は『覚悟の表情』だった。
右井少尉に、何て報告すれば良いのかはさておき、第七研究所に急行することにして、本部家を後にする。
不思議なことに、あれだけの爆発であったにも関わらず、ご近所の住民が集まってくることもない。
血を拭きながら振り返る。荒山が見た本部家の周りには、結構な高さの『バリケード』が設置されていて、まるで『爆破はいつものこと』と語っているようにも見える。
いや、そんな馬鹿な。いやいやいや。ありえん。
本部家の裏に、乗りつけたバンがそのまま残っていた。
車二台で乗りつけて、本部長を連れて帰る筈だったのに、生き残ったのは俺一人か。
いや、本部長と一緒に帰った書道家がいたなぁ。
運転席に飛び乗ると、椅子の裏から発信器替わりの携帯電話を取り出す。そして、第七研究所の指定された電話番号に掛ける。
ハッカー殲滅作戦の、作戦本部が応答する筈だ。
二回の呼び出し音の後に繋がった。荒山は直ぐに話し始める。
「ペンギン班の荒山です。捕獲は成功。部下は全員死亡。帰投しm」
そこまで話した時だった。電話の向こうから見知らぬ相手、いや、聞き覚えの無い声で話し掛けられる。
『この電話は、現在使われておりません。ピーっと鳴りましたr』
荒山は電話を切って放り投げると、直ぐに車のエンジンを掛けた。




