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ハッカー殲滅作戦(二百八)脱出

「こちら防疫給水部、第七研究所、本部応答願います」

「通じたか?」「駄目だ。電話も無線も出ない」

 通信室は前代未聞の事態に何もできず、混乱していた。

 鉄の扉を内側からロックして、当面の安全を確保してはいるものの、その気になれば鉄の扉の一つや二つ、どうにでもなる。

 それが軍隊だ。今は敵が、まだその気になっていないだけだ。


 それに、今攻め込んで来ているのは、信じられないことに『日本人の軍隊』らしい。おいおい。ここは陸軍の研究所なんだぞ。

 誰の許可を得て、同じ陸軍が攻めて来ているんだよ。

 お呼びでないとは、このことだよ。


 ジャミングはいつの間にか切れていて、だから無線も使用可となっている。それでいて、こちらの無線は使えない。

 これも一体、どうなっているのか、サッパリ判らない。


 ラジオ無線、モールス信号、軍用無線、軍用電話、携帯電話、衛星電話、コンピュータ通信、ありとあらゆる通信が遮断され、外部との連絡が一切できなくなっている。


「緊急信号も送ったんだよな?」「はい。もちろんです」

「じゃぁ、何で応援すら来ないんだよっ!」「判りません!」

 迎賓館入り口で異常事態が発生してから、もう一時間になるではないか。何で都内の軍事施設からの『緊急信号』に、一人の兵隊の援軍も来ないのか。どうなってるんだ。


 考えても理由が判らない。それに、さっきサーバー室だろうか。多分そうだろう。爆発音が聞こえて振動が来た。

 それっきり、コンピュータによる制御が全て不可になっている。

 今は全部手動で、無線機を扱っている状態だ。


 男はさっきから何度も見ている腕時計を、再び覗き見る。

 時刻も事態も、一向に進んでいない。どうなっているんだ。

 もう、こうなったら最後の手段に打って出るしかない。


「機密文書破棄。最後はモールスだけONにして退避せよ」

 宣言した通信士も含め、三人が動き出す。


 一人が書棚を解錠し、優先順位の高い順に書類を机上に運び出す。

 暗号解読に使用する文書、通信の視聴記録、その他諸々だ。それを二人目の男が書類溶解機に次々と放り込む。


 三人目の男が、入らない分をシュレッダーに突っ込む。

 いつ敵が来るか判らない。とにかく急げだ。


「駄目だ。こんなの間に合わない」

 男は呟くと、机上に置いた紙を一掴み取り、細かく裂き出した。そして、持っていたライターで火を点ける。

 それを見た他の二人が、止める様子もない。むしろ頷いて、一緒に燃やすのを手伝い始めた。


 撤収訓練をしてはいた。しかしそんな急に、棚一杯の機密文書を処分しなければならない事態なんて、想定していない。


 三人の男達は、部屋に煙が充満する前に通信室を脱出し、『伝令』として、防疫給水部本部を目指すことにした。

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