ハッカー殲滅作戦(二百六)
「実は以前にも、この女性から『警告』を受けたことがありまして」
応接セットのテーブル上にある人物を指さして、石井少佐が言う。そして、渋い顔をして陸将の方を見た。
すると陸将は、こちらも渋い顔で前のめりになると、右手で支えていた葉巻をグッと強く噛んで支えると、葉巻から右手を離す。
そして、その離した右手で、指さされた書類を拾い上げた。
ジッと睨んでいるのは老眼だからであるが、石井少佐には陸将が『お怒り』であると見える。
左手で葉巻を支えると、その書類と石井少佐の顔を交互に見ながら、大きく溜息をした。
それと同時に、またもや葉巻の煙が大きく広がって行く。
「これまた『大物』に、目を付けられたもんだねぇ」
その割に、ポイッと書類を机上に放り投げた。勢いでシュルシュルと流れて行く。石井少佐がそれを受け止めると、元に戻した。
机には、多くの書類が散らかっている。それは『重要人物』について、一人をA4一枚にギュギュっと纏められたものだ。
顔写真については当時のままである。どうせ出会った時には変装しているだろうし、覚えたって参考になるかは怪しいものだ。
「はぁ。君は『B・L』にも手を染めたのかね?」
イライラし始めた陸将が、左手に持ったままの葉巻を口に咥え直すと、吸ったり吐いたりしながら右手を振る。
石井少佐は一度手放した紙を、再び手にして覗き込む。
そこには、陸将が言った『B・L』こと、『黒豹』である旨が記載されていた。
さっきからそうなのだが、これらの書類は『隠語』だらけだ。
「黒豹? 部隊ですか? それは、何でしょうか?」
石井少佐は恐る恐る陸将に聞くが、嫌な予感しかしない。
すると陸将は眉をひそめた。まるで『俺に聞くな』である。
それでも説明しようとしているのか、右手に持ち直していた葉巻を、再び左手に持ち直す。そして、自由になった右手の五指をピンと伸ばすと、辺りをキョロキョロを見始めた。
「ヒュンッ」
短く言いながら、右手を素早く横に振る。
説明はそれだけだったが、石井少佐にはそれで十分だった。流れ続ける油汗が、どうにも止まらない。
「君ねぇ。もう『金曜日のカレー』も、食べられなくなるよ?」
首を斜めにしながら覗き込むように言われても、石井少佐は答えられない。それに、そういう問題でもない。
「どこまでも追い掛けて来るからね?」
人差し指を真っ直ぐに突き付けられて、石井少佐は頷く。
「はい。それはもう『経験済』でして」
「じゃぁ、何で許可したんだっ! 君は大佐になりたいのかっ!」
ダンッ! と机をぶっ叩いた勢いで、石井少佐は飛び上がった。




