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ハッカー殲滅作戦(二百五)長い独り言

 石井少佐は首筋に、ダラダラと油汗を流していた。

 ちらっと窓の外を見る。そこに三センチ程の穴が開いたとき、首筋に流れるのは油汗ではなく、別の液体になるだろう。

 それが果たしてどんな色なのかは、他人には解るまい。


「どれで、どうするつもりなのだね?」

 その質問はもう三回目だ。野太い声が、だだっ広い部屋に響く。

「はい。持ち帰り、検討させて頂きます」

 石井少佐の答えも、もちろん三回目である。こちらは『か細い声』が、陸将の耳にやっと届いている状態だ。

 陸将は納得してくれたのだろうか。何度も頷いた。


「君ぃ。説明するのはこれで、二十五回目だよ?」

「申し訳ございません。申し訳ございません」

 何の説明なのか良く判らないが、とにかく頭を下げる。

 陸将は溜息を付いて、応接セットのソファーにふんぞり返った。


 石井少佐は陸将からの招集を受け、急行するハーフボックスの中で右井少尉の報告書を読んでいた。

 途中で吐きたくなったのは、車酔いではない。一応言っておくが、ハーフボックスの車酔い対策については、また別の機会にしよう。


 石井少佐自身が承認したことになっている『ハッカー殲滅作戦』は、東京アンダーグラウンドから『被験者』を集めるのに『邪魔な作戦』を、妨害するためのものだ。


 指揮下の『防疫給水部』は、部隊に安全な水源を確保することを名目に編成された部隊で、通称は『731部隊』である。

 そこで『各種実験』を行っているのであるが、そこに『被験者』の存在は欠かせない。薬を作るにしても、毒を作るにしても、とにかく『サンプル』が必要なのは、理解できるだろう。


 その貴重な『供給源』が、東京アンダーグラウンドだとしたら。

 何しろそこからは、市民権のない『人型生物』が採取できるのだ。


 しかし彼らも人型。黙って狩られたりはしない。彼らとそれを支援する者が集まって組織されたのが、『東京地下解放軍』である。


 陸軍はそれをテロ組織として殲滅しようとしているのだが、実の所『東京地下解放軍』とか『指定テロ組織』なんて言い出したのは、元々は陸軍なのだ。今はすっかり馴染んでしまっているが。


 今回、同じ陸軍内であるにも関わらず、相反する作戦を実施してしまった訳だが、それは普段から良くあることなので不問となった。


 問題は、歴代の陸将から『申し送り事項』として受け継がれている『禁忌』に、うかつにも触れてしまったことのようだ。


 陸将は冷たい目で石井少佐を見つめている。鼻から大きなため息を吹き出しながら、机上の小箱を開けた。

 そこから葉巻を一本取り出し、カチンと吸い口を切って咥えると、ゆっくりと自分で火を点ける。

 大きく葉巻を吸って、フーっとため息交じりに吐き出した。


「君ぃ、消されても、知らないよっ?」

 煙の向こうに、石井少佐の形だけが辛うじて見えていた。

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