顔パス(七)
「所で、文学部の皆さんは?」
話題を変えたのは琴美だ。絵理が右手の親指で外の方を指す。
「あぁ、皆、今日は合コンだってー」
楓がその方向を見る。
「えぇー、いぃなぁ」
笑いながら、絵理が理由を説明。
「レポート、無いんだってさぁー」
振り返って、また楓が言う。
「えぇー、いいなぁ」
美里も笑っている。
「楓、おもろっ」
「どうせ、大した男、来ないってぇ。私はパスだなぁ」
琴美は、あまり羨ましくないようだ。
「だよねー。私もパスだわぁ」
絵理もそれに同意する。
「でも、いぃなぁ。ごはん作らなくていいじゃーん」
「そっち?」
楓の意見に、美里が聞き返している。琴美が言う。
「じゃぁ、今日はうちらだけかぁ」
「お腹減ったね」
絵理も同意する。
「じゃぁ、今日は四人で準備しますかぁ」
美里は、覚悟を決めたようだ。
「めんどくさーい。何にするのー?」
楓は渋い顔で前に倒れ込む。琴美は笑う。いつものことだ。
「一人一品?」
琴美が首を傾げて聞く。
「私、冷ややっこ―」
真っ先に反応したのは楓だ。倒れ込んだまま右手をあげ、立候補。
「ずるーい。私も冷ややっこー」
絵理も右手をあげて立候補する。琴美は苦笑い。
「ちょっと、冷ややっこ、そんなに要らないって」
「じゃぁ、私が冷ややっこ作りまーす」
ついに三人目。美里が手をあげている。
「どういうこと?」
思わず琴美が聞き返す。それを聞いて、楓がパッと顔をあげた。
「じゃぁ、琴美は『ごはん』と『豚汁』と、何か肉料理よろしくぅ」
笑いながら楓がリクエストしている。
「おぉーいっ!」
琴美の突っ込みに、全員手を降ろして笑う。
「何でみんな豆腐なんよ?」
楓が聞いた。絵理が笑いながら答える。
「だって、特売だったじゃん?」
美里が同意して、人差し指を楓に指して聞く。
「三河屋の?」
さされた楓も人差し指で指し返す。
「そうそう! あそこの豆腐、美味しいよねぇ」
美里も楓も笑う。それを見て、美里も笑っているではないか。
「ちょっと、みんな同じ豆腐なの?」
琴美だけが、豆腐を買っていなかったらしい。
「そうみたいねぇ」
楓が苦笑いしている。
「じゃぁ、湯豆腐にでもするかぁ」
絵理が提案。それに美里が乗る。
「いいね! 簡単そうだし!」
「えー、肉も入れようよぉ。せめて『鍋』とかぁ」
楓が追加を要望している。三人は顔を見合わせる。
「じゃぁ、『鍋』にするかぁ」
絵理が修正し、また美里が乗る。
「いいね。簡単だし」
「肉でも、魚でも放り込んじゃおうか」
どうやら、琴美は肉と魚の担当であろう。楓は笑顔になる。
「やっほー。私、豆腐二丁あるぅ」
「うっそ、私も二丁あるー。全部使って良いよ」
「まじで? 豆腐多くない? 私も二丁だけど」
それを聞いて琴美は、苦笑いするしかない。どうやら今日の鍋は、豆腐が多目になりそうである。
四人は笑いながら席を立つと、夕食の準備を始める。
今日は、レポート合格記念の『豆腐多目鍋』。
「白菜ないよ?」
楓が気が付いて聞いてきた。
「今の季節、ないよー」
琴美が笑って指摘する。楓も言われて頷いた。
「まぁ、そうだよねぇ」
今は六月。そんな時期に北半球で『鍋』をしている者はいない。
「キャベツにすればぁ?」
絵理が代案を提示した。美里がポンして答える。
「キャベツなら、私出すよ」
「おぉ、よろしくぅ」
楓の返事が早い。美里がOKサインで答える。
「昨日、とんかつ食べようと思って、千切りにしたのあるからぁ」
「ちょっと! まぁ、いっかぁー」
鍋を取り出していた琴美は、思わず苦笑いした。




