ハッカー殲滅作戦(二百一)
その場でズッコケた全員が、手榴弾を仕込んだ配達ロボを笑いながら追いかける。
まるで、歩き始めた幼児が転んでしまったのを、『あらあら』と言いながら追い掛けるかのようだ。人数は、やや多いが。
「スタックしちゃってるじゃないですかぁ」
「防火扉閉めろって言ったの、俺じゃないしぃっ」
三河の指摘にも、高田部長は何かにつけ、人のせいにする。悪い癖と言うか、いや、癖ではなく性根と言うか。
兵士が警戒しつつ、防火扉の一番端にある『避難扉』を開ける。
「こちらからどうぞ」
遠くを見て警戒しつつ、手を振りながら言っている。しかし配達ロボは、決められた進路の通りに動くのか、そこから動かない。
「おい、そっち持って、こっちに引っ張れ」
三河が部下に指示をして、どうにか避難扉の方に動かそうとしている。すると高田部長が慌ててそれを止める。
「ダメダメ。揺らしたら、スイッチ入っちゃうよ?」
一斉に止まる。しかし、そんなこと言われても、あと十五分で爆発してしまうではないか。
「タイマー解除して下さい」「やり方忘れちゃったよぉ」
ちょっと待って。そんなことあるのだろうか。三河は渋い顔だ。
しかし、高田部長が嘘を付いているようには思えない。同じように、渋い顔をしているからだ。
確かに高田部長は、標準装備であるにも係わらず、『起爆スイッチの使い方』を忘れてしまっていた。
しかし彼に言わせれば、それは本部長が勝手に仕込んだもので、自分の設計ではない。
製造前に本部長承認を受領するため、設計図一式を提出したのだが、それを一晩で、勝手に書き換えられてしまったのだ。
「じゃぁ、どうするんですか?」「仕方ない、あれをやるか」
どうやら別の方法があるようだ。高田部長がまた腕を振り、三河らの兵士をどかして配達ロボの前に立つ。
そして突然、笑顔で手を叩きながら後ろに下がり始める。
「あんよは上手。あんよは上手。あんよは上手」
何故に『その言葉』になったのかは不明である。多分『企業秘密』なのだろう。全員がそう理解していた。
その証拠に、配達ロボの上部についた液晶画面に、『精密誘導実施中』の文字が大きく表示され、その下に『開発責任者 高田孝雄」と、誘導者が表示されているからだ。
きっと、顔認証、声認証も働いているのだろう。意味判らん。
「あんよは上手。あんよは上手。あんよは上手」
それでも無事に避難扉をすり抜けると、一同はホッとする。
こうして再び『既定のコース』に戻った配達ロボは、いつも通りに『家路』を奏でながら走り始める。
全員がホッとしながら、後ろ姿を見送っていた。
通路の先に、ちょっとした段差があったのだが、そこでガクンとなると皆は顔を見合わせる。しかし、誰も助けに行こうとはしない。
再び動き始めた瞬間、全員が素早く非難扉の向こう側に消えた。




