ハッカー殲滅作戦(二百)
パタンとノートパソコンを閉じた。そして、振り返って笑う。
「仕掛けは上々」「よ、良かったですね」
配達ロボはもう用済みと言わんばかりに、少々乱雑に蓋を閉じる。
「この配達ロボは、もう良いのですか?」「あぁ、これぇ?」
高田部長に、さっきまでの『父親』としての振る舞いは、もう見られない。
それはまるで、無理矢理持ち込まれた『他社製品』を見る目だ。
しかし、そこは『愛社精神』が宿るのだろうか。それとも背中に『NJSマーク』が見えたからだろうか。
パッと明るく表情を変えたかと思うと、ニッコリと笑った。
「良いこと思い付いたぁ」「何でしょうか?」
さっきと同じ『悪い笑顔』だ。そして右手を差し出している。
「手榴弾、ある? 『Cー4』でも良いけど」
どちらも『爆発物』であることには違いない。それを背広の男から、『悪い笑顔』で手を指し伸ばして要求される。
どうすべきか迷うではないか。しかも時間がない。
「全館爆破は想定していなかったので、流石にCー4のご用意は」
「じゃぁ手榴弾でも良いや。一個ちょーだいっ!」
可愛く言っても、爆発させるつもりであることには変らなない。
「おい、誰か、一個『全権殿』に渡してやってくれ!」「はい」
秋葉原ならまだしも、新宿でも直ぐに調達できるとは恐るべし。
高田部長はそれを受け取って配達ロボの方を向くと、再びメンテナンス用の蓋を開ける。
そして、オプションユニットを差し込む『空きスペース』に、あろうことか、今手にしたばかりの手榴弾を仕込み始める。
「良いか、よく見て、覚えて置け」
作業を途中で止めた高田部長が、突然振り返ってそう言うと、後ろから、興味深く覗き込んでいた兵士たちが驚いた。
そしてその兵士全員が、一斉に頷く。
「先ず、この留め金を引く。そして、ここに手榴弾を置く」
振り返って『良いか?』の目で一同に聞く。全員、不思議そうな目で見つめているが、一応その目は『了解』である。
高田部長は再び前を向いて、手順を示す。
「手榴弾が固定できたら、横からのフックを安全ピンに引っかける」
メンテナンスボックスに手を突っ込み、左の方から『ビヨーン』と伸び縮みする線と、その先にあるフックを引っ張り出した。
それを手榴弾の安全ピンに、そっと引っかける。
「ここに、ガイドレバーがあるから、それをセット」
上側に隠されているレバーを引っ張り出すと、それを手榴弾のセイフティレバーに引っかけた。そして、『これが完成形だ』とばかりに振り向いて、笑顔を振り撒く。
「質問は?」
唖然としていて、どうやら質問はないようだ。高田部長は頷いて、メンテナンス用の画面を操作する。すると、テンキーが表示された所で再び振り返った。
「良いか? 最初の四ケタが『時分』で、次の四ケタが『座標』だ」
どう考えても『時分』とは、起爆するまでの時間に思える。
「ゼロ(ピッ)ゼロ(ピッ)ジュウ(ピッ)ゴ(ピッ)
これで十五分だ。OK?」
やっぱりそうなのね。全員が頷いた。説明は続く。
「オールゼロは、ホームポディション。それ以降は、顧客による」
いや、誰が自社の配達ロボに爆弾を仕掛けて、自社で設定した座標に向かわせるのか。もしも、そんな使い方をしている会社があったら、是非、この目で拝んでみたいものだ。
「と、まぁ。こんな感じにセットして、蓋を閉めればぁ」
急に思わせぶりに説明を止め、笑顔で振り返る。そして、パッと腕を振り上げると、人差し指を上に向けた。
「ここで注意デース。もし、セットした場所が『座標』の場所だと、蓋を閉めた瞬間に爆発してしまいまーす」「えぇっ」「あっぶっ」
高らかに宣言してから、高田部長は腕を降ろした。
そして、配達ロボの方に向かうと、メンテナンス用の蓋を開けたまま、一番上にあるボタンを押下した。
それは普段『荷物を取りましたよ』の、合図をするボタンだ。
「今、『ホームポディションへ戻れ』のボタンを押したので」
そう言いながら、後ろに付いて歩き始める。兵士達に『どいてどいて』と腕を振りながら付いて行く。
当然兵士達は、物騒な『配達ロボ』に道を譲り、お帰り頂くことに異存はない。むしろ、早くお帰り頂きたい。
「こうやってぇ、移動を始めた所でぇ、ロォォック!」
配達ロボが遠ざかっていく。ガンマチーム全員が見送る中、閉鎖された防火扉の方にクルリと向きを変えると、停止してしまった。




