ハッカー殲滅作戦(百九十九)
賢いのか、そうではないのか。それとも、きっちり指示通りなのか、指示通りにしかできないのか。やりとりを聞いて、兵士は悩む。
しかし相手をしている高田部長が、何だか楽しそうにしているので、きっといつものことなのだろう。
それにしてもミントちゃんは、随分と『できる子』のようだ。
隊長の三河は、手にしていたタブレットをふと見ると、そこに何故か『ミントちゃんより』というフォルダが出来ていた。
『いや、メールじゃないのかよっ』
と、心の中で突っ込みを入れながらそれを開くと、現れたのは建物の図面と、電気配線の図面だ。
電気配線の方はご丁寧にも、現在の通電状況まで表示されている。
建物の図面の方には、こちらもご丁寧に『味方の位置』までプロットされていて、それは刻一刻と更新されている。
三河は驚いて、現在地点を最大表示にして覗き込んだ。
「三河小隊長、何しているんですか?」
不思議そうに聞く隊員を無視して、タブレットを覗き込みながら部屋の中を歩き回る。
すると『現在地』が、追随して動いているではないか。
再び『現在地』が、高田部長の背中に戻った。そこでは、ミントちゃんと高田部長の会話が続いている。
『妨害電波が出ていたので、止めておきました』「気が利くねぇ」
『味方にも、同じ情報を送っておきました』「いいねぇ」
『サーバーの管理者権限の奪取に成功しました』「保存先調べて」
『三カ所のバックアップ先を検知しました』「世代全部調べて」
『バックアップ先の管理者権限を奪取しました』
「OK。じゃぁ、原本をファイルサイズ分、全部『NJS』の文字で上書きした後に、バックアップ。その後、ファイル名の前後左右の文字列を入れ替えて暗号化すること三回。そして全ファイル消去」
長い指示が飛んだあと、ミントちゃんからの返事がない。最後の命令は、ちょっと難しかったのだろうか。固唾を呑んで待つ。
『あのぉ、この『前後左右』とは、どういう意味でしょうか』
「良きに計らえ」
ミントちゃんからの質問に、高田部長が即答する。
『承知しました。隣のファイル名と解釈します』「それで良い」
何とか通じたようだ。ミントちゃん頑張れ。
『ファイルサイズが『3の倍数』じゃない時は?』
再びミントちゃんからの質問が。高田部長は溜息をして、再び指示を出す。
「良きに計らえっ!」『承知しました。『!』で埋めます』
聞いている兵士達にも、高田部長の回答が『雑』に感じられる。軍隊だったら、あり得ない命令だ。だからだろうか。ミントちゃんが、あからさまな不機嫌な感じで答えている。
しかし、今答えているのは、実は朱美だったりして。




