ハッカー殲滅作戦(百九十八)
机の周りに集まっていた兵士が、高田部長から見えるように退いて視線を通す。するとそこには、今指示のあった配達ロボが停止して、愛想を振りまいているではないか。
高田部長は直ぐに動き始めた。
『帰り道が、判らなくなりました。(ピポッ)』
「これ、さっきからこんな感じなんです」
兵士が困った顔で指さした。高田部長は笑顔で頷くと、まるで『我が子』でも見つけたように頭を撫でる。
「怖かったでちゅねぇ。今、分解してあげまちゅからねぇ」
親として、その慰めの言葉はどうなのだろうか。いや、これの開発責任者が高田部長だったとは、誰も知らないだろう。
それでも簡単にメンテナンス用の蓋を開け、ノートパソコンと接続したのを見て、少なくとも『物凄く詳しい人』であることは判る。
もちろん顧客用の『ログイン画面』が出て来たのだが、それを工場責任者しか知らない『管理者権限』で軽々と無視。
製造元用のメンテナンスメニューを表示すると、早速内容をパソコンの画面上に表示する。
しかしそこに表示されたのは、おおよそ『普通の人』には何のことだか判らない『文字の羅列』である。
兵士が珍しそうに、後ろから覗き込む。高田部長はそれを見て、『うーん』と呻きながら考えている。
流石イーグル。これが判るのかと、兵士が思った瞬間だった。
「あぁ。やっぱり、顧客情報は暗号化されているか」
明るく言い切って、キーボードを叩き始めた。後ろの兵士が全員ズッコケたのだが、それを見もしない。
何やらバチバチをキーボードを叩いていると、その内に画面が真っ黒になった。トラブルだろうか。
「ミントちゃん。今送ったファイルから、地図起こして」
『承知しました。タイマーは何時にセットしますか?』
突然、高田部長がパソコンと話し始めた。後ろの兵士達が、渋い顔で顔を見合わせる。
それでも、聞こえたらまずいと思うのか、口をパクパクさせているだけだが、口々に、何か言いたそうだ。
出発前の作戦会議で総帥が、『イーグルは、パソコンを持たせたらヤバい奴』と言っていたのは、きっと、このことなのだ。
「今直ぐ。あとね、ハムエッグも、ホットミルクも要らなぁい」
『承知しました。では建物の設計図と、配線図は如何ですか?』
何だかトンチンカンな会話をしているが、情報だけはドンドン送られて来ている。『ミントちゃん』って、一体誰だろう。
「うん。お願い。あとね、全ての通信ログを入手して、回線断」
『承知しました。外部からの応答を、代理で行っておきますか?』
「そうね。それもよろしく。『何でもない』って、伝えて置いて」
『承知しました。では、さようなr「ちょっと待って!」
慌てて高田部長が呼び止める。しかし、沈黙が続く。
ミントちゃんは一体、何をしているのだろうか。返事がない。
『えーっと、何でもない』「いや、この通信は『内部』だからっ!」
画面にチョップして叫ぶ。これはもう、ヤバい奴にしか見えない。




