ハッカー殲滅作戦(百九十七)
「新宿の航空写真は出るか?」「はい。出せます」
両手を腰にあて、上官として最初の質問が飛んで来た。三河はそれを直ぐに打ち返す。
「直ぐに出してくれ」「了解しました。おい、頼む」「はいっ」
現在地が判らなくて、困っていた。本来『建物への侵入』は、充分現地の状況を、把握してから行うものだ。
それが今回、これだけの人数を揃えて『行き当たりばったり』なのだから、困っているのだ。
「こちらです」「貸してくれ」「はい。どうぞ」
差し出されたタブレット。それに表示された地図を、高田部長の前に置いた。
それを素早く操作すると、現在地点を画面中央に写す。
「本部がA、現在地はB。良いか?」「はい」「はい」
画面上に印は付けられないが、問題ない。衛星写真で建物の形と、位置を確認すると頷いた。
地図が示す『北』と、窓から見える光の具合も一致している。
「アルファとベータが探索中の場所がC区域だ」「何をですか?」
指でぐるりと囲った地区をそう説明したのだが、三河からの質問に高田部長は頷いただけだ。
「良く見て置け」「はい」「はい」
部屋にいた全員が、小さなタブレットを覗き込む。すると、高田部長が航空写真の縮尺をゆっくりと変更して広域にしてみせた。すると新宿西口の街、淀橋地区が広がる。
「先ずはこちらの地区へ、この道の下、共同溝への脱出路を探す」
その説明に納得し、全員が頷いた。しかしそれは、アルファとベータの役割だろう。ガンマの出番とは如何に。
「我々は、この施設全体の破壊工作を担当する」「はいっ!」
そこで初めて高田部長の顔に『笑顔』が浮かぶ。
それは彼らが、一度も見たことの無い『悪い笑顔』だ。
ふと三河は気が付く。なんてこった。高田部長の左手に持っている物。
それはもしかして、『ノートパソコン』ではないのか?
作戦会議での注意事項を思い出したのだが、もう遅いではないか。
おもむろに、そのノートパソコンが開かれて、悪い笑顔のまま高田部長がキーボードを叩き始めた。
それは常人には『全力』に見えたかもしれないが、そうではない。
高田部長の全力を引き出すには、少なくとも『鳴り響く銃声』と、『カウントダウンし続けるタイマー』の二つは必須。
まだまだ今の状況は、全力を出す場面ではない。
「よし。『配達ロボ』を掴まえて来い」「それは一体?」
三河の間抜け面。おいおい。自社製品なのに見たことないのか?
「『こん位』のやつだよ。見たことあるだろう?」「あぁっ」
三河は思い出したのか、パッと笑顔になって頷き、後ろを指す。
「もしかして、『あれ』ですかぁ?」




