ハッカー殲滅作戦(百九十一)
「こ、この建物にアルファ、ベータはここ、えーっと」
汗を掻きながら隊長が説明を始めた。本部長は渋い顔をしているが、そのまま聞いている。
「ガンマはこの辺かな。デルタは我々。イプシロンはぁ」
隊長が無線係を覗き込む。すると、手を伸ばして指さした。
「この辺だと思います。さっき連絡がありました」
報告を聞いて、本部長が頷く。
決して『満足』した頷きではない。それは、表情を見れば明らかだ。渋い顔をしている。隊長はドキドキが止まらない。
本部長は考える。一体、何をしに来たのか知らないが、ちょっとばらけ過ぎだ。
それに『地下牢』ばかりに、気を取られ過ぎてはいないだろうか。
本部長が、無線係の方にスッと手を伸ばした。
すると、隣にいた兵士がサッと下がり、無線係が本部長の隣にやってくる。そして一礼し、無線のマイクを渡す。
「こちらエンペラーペンギン。イプシロン応答せよ」
『こちら(ザー)プシロン。オーバー(クキュ)』
本部長の渋い声に対し、直ぐに応答があった。
「0ー4ー5、窓の外に杉の木は何本見える?」
『おいっ、窓の外に(ザピーッ)は(ザー)だ?』
突然の質問に慌てているのだろうか。何だか雑音が酷い。
『三本です。オーバー(クキュ)』
辛うじて本数の報告があった。すると、直ぐに指示が飛ぶ。
「孤立する、下がれ。デルタと合流せよ。その先のS2を右」
『デル(ザー)合流了解。オーバー(クキュ)』
「機械の調子が悪いのか?」「いいえ。正常です」「判った」
それを聞いて、本部長は理解する。
さっきのJPS受信障害と言い、無線の雑音と言い、どうやらこの付近一帯は、無線封鎖されているようだ。
となると、パソコンのWIFIも使えないだろう。
本部長はニヤリと笑う。
と言うことは、無線で『救援を求める』ことも出来ない訳だな。
「二人、S2まで迎えに行ってやれ」「はいっ。行くぞっ」
机上の写真をトントンすると、兵士二人が敬礼して臨時本部を飛び出して行った。
本部長は再び机上に目を落とす。そして、建物を指でツツーっと撫でる。直ぐに無線のスイッチを入れた。
「ガンマ応答せよ」
『こちらガンマ。2ー7ー0に、杉の木が二本です』
無線の音声は良好のようだ。そして、位置の報告まで付いて来た。
「現在地から1ー8ー0に向かって百メートル移動し、左側にある三カ所の防火シャッターを使って閉鎖せよ」
『1ー8ー0、百移動、三カ所閉鎖了解』
「ガンマ、到着したら報告せよ。オーバー」
『報告了解。オーバー(クキュ)』
本部長の意図した陣形が、徐々に明らかになる。




