ハッカー殲滅作戦(百八十六)
「何人殺られた?」「えっ?」
答え合わせでもするように、本部長が牧夫に聞く。しかし牧夫には意味が判らない。
だらしなく顎を前に突き出して、ホゲーっとするばかりだ。
本部長は、眉をひそめた。
すると向こうに、『逝ったと思っていた奴』の顔が覗く。
角の所から、上、中、下、三段になった顔が、壁から出たり入ったりしてこちらを伺っている。一番上が高田部長だ。
「おいっ! お前、遅いじゃないかっ!」
ニッコリ笑って後輩を呼び出す先輩の声。
直ぐに高田部長が壁から飛び出すと、ヘコヘコと胡麻を擦りながら歩いて来る。
「どうも、どうも。遅くなりましてぇ」
本部長は、さっきまで『惜しい男を亡くした』と思っていたのを打ち消す。
そして、頭をペチンと叩こうとしたのだが手が届かない。仕方なく、笑って誤魔化しながら腹に一撃を加える。
「はぅぅ。グェー」「そんなに強くやってないだろぉ」
確かに『そう』に違いない。ついさっき、鉄の扉を吹き飛ばしたのと同じ『右手による攻撃』なのだ。
どう見ても、笑顔でふざけているようにしか見えない高田部長が、そんなに強い訳がない。誰もがそう思っている。
「『八割』に抑えたんだからさぁ」
「ですよねぇ。どおりで生きていられる訳ですよぉ」
二人共『ハハハ』と乾いた笑いをして、寸劇は終わった様だ。
本部長の顔が、パッと変わった。
「それ、俺の『ベレッタちゃん』じゃないのか? 見せろよ」
高田部長の両腰にぶら提げている二丁拳銃を指さして、大きな声をあげた。
「はい。そうです」「じゃぁ返せよ」
素直に頷いて、腰のホルスターを外しに掛かる。それを無視して、本部長は先に拳銃を引っ張り出す。
「本部長のだと思ってぇ、私が、預かって来ましたぁ」
さっきまで、まるで『自分の物』のようにぶっ放していた癖に。全くもって調子の良い奴だ。
しかし本部長はそれも無視して、手にしたベレッタ二丁を交互にジッと眺めている。
「何だ? お前『右子』と『左子』を、逆にしてたのかよっ」
「あぁ、どおりで『ちょっと曲がるなぁ』って(イテッ)」
そこまで言った所で、頭を銃床でコツンと叩く。
「機嫌悪くしたら、どうしてくれるんだよぉ」「すいませーん」
蚊にでも刺された後のように、高田部長は頭をポリポリと掻いている。再び互いに笑顔だ。
すると本部長は、お手玉でもするように左右のベレッタを放り投げ、空中で入れ替える。パッと手にすると、両方をクルクルと回し始めた。それは、誰かさんより凄く速い。
最後に、腕を胸の前でクロスさせて止めると、舌を出して笑った。




