ハッカー殲滅作戦(百八十五)
沸々と込み上げて来る怒り。そして、部下を守れなかった自分にも腹が立つ。どうしてくれよう。この気持ち。
「誰か、電卓持ってないですか?」
扉の外から、牧夫の間抜けな声が聞こえて来る。
本部長は軽く溜息を吐く。使えそうなのは牧夫一人か。仕方ない。
折角生き残ったんだ。怪我させても、可愛そうだな。
「扉から離れてろ」「35×27に7足してぇ」
牧夫が聞いている様子はない。型番は同じでも、シリアル番号が変なのか、開錠コードの算出に手間取っているようだ。
その間も本部長は動き続けている。居合の呼吸を整えるのだ。腰を落とし、大きく息を吸っていた。
両手を真っ直ぐ上に挙げ、目を瞑る。そして、肘を曲げながら息を吐き、ゆっくりと降ろして行く。
肘を曲げた両腕が腰まで降りると、気合十分。それで準備完了だ。
カッと目を見開く。
「はあああああああっ」「危ないっ!」「えっ?」
危機を察知したのは隊長だった。扉の中から『異様な空気』を感じたのだ。
咄嗟に、扉の前にいた琴坂親子にタックルして、扉の前から離す。
気合の入った本部長の『おりゃぁ』の掛け声は、誰も聞いていなかった。いや、聞こえていなかった。
その代わりに聞こえて来たのは、『ドン』という音。
それとほぼ同時に『メリメリ』『バリバリ』と、何やら金属が曲がるような音や、物凄い速さで何かが壊れる音が。
いや、全部混ざって凄い破壊音としか判らない。
一番強く感じたのは、そんな破壊音よりも、扉が廊下の反対側まで飛んで行ったときに感じた、『風圧』だったのかもしれない。
そんな扉と一緒に、隊長も無音で飛んで行く。
幾ばくかの砂埃が治まって、目を丸くした琴美が見たもの。
それは、腰を落として左手はピッタリと体に付け、右手を真っ直ぐ前に出した『ペンギンさん』の姿だった。
顔はまるで、襲い来るニホンカモシカの脳天に、一撃食らわせたかのような引き締まった顔。そして顎を引き、真っ直ぐな目だ。
「皆、無事かな?」
パッと切り替わった本部長が、トコトコと廊下に出て来た。見渡して、変な所で倒れている琴坂親子を見つけ、不思議な顔をする。しかしどうやら、全員無事なようだ。
まぁ、ちゃんと『警告』したし、それは当然か。
「そんな所で、どうしたの?」「すいません」
本部長が笑顔で琴美に手を伸ばす。琴美はその手を取って、立ち上がった。そして、スカートをパンパンと叩く。
それを見て安心する。落ちているカバンを掴んで引っ張ると、『グェー』という音と共に、牧夫も立ち上がった。




