ハッカー殲滅作戦(百八十三)
「あぁ、そうでしたね」「どうしたの?」
牧夫が思い出して呟いたのに呼応して、琴美が首を傾げる。そして、周りを見回した。ここは何処だろう。
「琴美、お願いがあるんだけど」「えっ? 私?」
周りをキョロキョロしていた琴美が、自分を指さして牧夫の方に振り返る。
助けて貰ったのはこちらだし、お願いをしたいのも、やっぱりこちらなのだが。
それでも『何かしら?』と聞き耳を立てるのは、父譲りなのだろうか。隊長は安心する。そして、説明を始めようとしたのだが、それは牧夫に制止された。
「ペンギンさん、覚えてる? 一緒にBBQした」
言われた琴美は、ニコリと笑う。『覚えてる?』なんて、冷たいではないか。まるで、そう訴えているようだ。
但し、琴美が思い浮かべていたのは、『多摩川でのBBQ』の方だ。中学の頃であろうか。行くまでは、正直乗り気ではなかった。
しかしペンギンさんの奥さんも、娘さん、確か『朱美さん』だったか。とても親切なお母さんだった。それと年下の、娘姉妹二人。
お母さんそっくりの可愛い子で、楽しく遊んだ記憶がよみがえる。
「もちろん、覚えているわよ?」
それに、豚の丸焼きなんて初めて見た。終始ニコニコしていたペンギンさんは、そんな丸焼きを回す係だ。
琴美も目を丸くして、ペンギン爺さんと一緒にクルクル回した。そんな楽しいBBQを、忘れるはずがないではないか。
「隣の部屋に、閉じ込められてるんだ」
「えっ? 何で? ペンギンさんが?」
不思議そうな顔をして、扉を指さす。拘束される理由が判らない。
しかし、どうして自分が拘束されたのかも判らないのだから、ペンギンさんが拘束された理由も、判る筈がない。
「助けてあげないの?」「ちょっと声掛けてくれる?」
琴美の問いに、牧夫も扉を指さした。すると隊長も、その他の兵士も、一斉に同じ扉を指さしたではないか。
琴美は苦笑いになって、首を傾げる。
人の願いとは。いやはや、判らないものだ。
「高いわよ?」
ニヤリと笑って、琴美は父に『いつもの目配せ』をする。
そうだ。娘への『お願い』は、高く付くのものだ。常識。
すると、冗談のつもりだったのに、父の牧夫も、隊長も、周りの兵士も一斉に頷き始めたではないか。
そればかりか、『どうぞどうぞ』と手を伸ばして、再びドアを指している。琴美は『お願いの意図』を、全く理解することなく、本部長が居座る部屋の前に立ち、覗き窓を開けた。
そこには確かに『ペンギンさん』が。座禅をしている。
「ペンギンさん、琴坂琴美です。お久しぶりです。大丈夫ですか?」




