ハッカー殲滅作戦(百八十一)
「いてててぇ」「この石頭めぇ」「そんなに勢い良く来なくてもぉ」
目をチカチカさせながら、頭を押さえている。タブレットはどうやら無事のようだ。三人はもう一度、その写真を見る。
そこに写っている女性は、踵の折れたハイヒールを片方だけ履き、顔をベッドに埋めて寝ているようだ。
「何だ。生足なのにパンツ見えないのか」
しれっと酷いことを言っているのは、もちろん高田部長である。右手の人差し指と親指で、腰の辺りを拡大させる。
「なぁに、やってるんですかっ(ペチンッ)」
牧夫が高田部長の右手を叩く。まさか叩いて来るとは思ってもいなかったのだろう。珍しくヒットした。
「何すんだよぉ」「何すんだじゃないですよっ! まったく」
牧夫の目が真剣だったので、高田部長も口を尖らせた後に、への字にする。無言の抗議だ。
「本当にこの子ですか? 間違いないですか?」
「えぇ。去年『親戚の結婚式用』にと、買ってあげた服ですね」
三時間も連れ回されて、やっと買ったのだ。忘れる訳がない。『ありがとう』と言ってくれた笑顔を、今でも鮮明に覚えている。
ふと気が付いて、耳の辺りを拡大する。少しピンボケしているが、ダイヤのイヤリングのようだ。これも見覚えがある。
「このイヤリングも、同じ時期に買ってあげたのだなぁ」
「判りました。では、行きましょう。あちらです」
隊長が大きく頷いて、直ぐに歩き始める。隊長は思う。
娘が三人いると『蔵がなくなる』というのは、本当のようだと。
牧夫は、怪我していないか確認したかったのだが、タブレットも隊長と一緒に行ってしまった。それに近くなら、実物の方が良いに決まっている。納得して後を付いて行く。
監視所の先、第四地下牢を、今日は『デルタチーム』が探索を続けている。ここは『ペンギンの巣』なので、全員慎重に『KK』捜索を続行中だった。
角にいた兵士が隊長に敬礼した。隊長も歩きながら敬礼を返す。
「KKここにいるらしい」「本当ですかっ?」「静かにっ!」
隊長の声が地下牢に反響したが、直ぐに静かになった。全員が人差し指を口にあてて『シーッ』のポーズで固まっている。
「では、お父さんだけ来て貰えますか?」「俺は?」「うーん」
隊長はちょっと驚いて高田部長の方を見たが、明確な返事もなしにそのまま牧夫を連れて行ってしまった。
地下牢の廊下は両側に重厚な扉が等間隔で並び、必要最低限の明かりなのだろう。薄暗い。
通路の奥で、まだ捜索をしている兵士もいるが、大声で呼ぶ訳にも行かず一旦放置だ。護衛付きのチームだし、大丈夫だろう。
「こちらの部屋になります」
隊長がヒソヒソ声で言う。牧夫は深呼吸して頷いた。




