ハッカー殲滅作戦(百八十)
「どうやって探していたんですか?」「あぁ、それはですねぇ」
牧夫の質問に、隊長が頷いて答える。そして、直ぐに部下を手招きで呼ぶ。
話が聞こえていたのだろう。部下が、タブレットを差し出した。
「ペンギン捜索と同時に、中を撮影してましてね。こんな感じです」
シュッシュッと指で横にスライドさせると、中を撮影した様子が切り替わっている。
隊長は牧夫にタブレットを向けると、牧夫は自分の人差し指で、シュッシュッとやり始めた。
しかしその写真は、『内緒でそっと撮影されたもの』なので、顔が殆ど写っていない。誰だか判別不可能な写真ばかりだ。
狭い独房のためだろう。大体足先が手前で、頭が奥の方で横になった写真ばかり。確かにこれでは判らない。
「こんなんで、良く本部長判りましたね」
渋い顔で牧夫が言うと、隊長も渋い顔をしてタブレットを引き寄せた。そして、自分でシュッシュッとやり始める。
そして該当の写真を見つけると、一同が覗き込む前に差し出す。
「ほらぁ。こんな感じなので、直ぐ判りましたよ」
それは、まるで徳の高いお坊さんのように、ベッドの上にあぐらをかいて座り、姿勢を正して座禅をしてる姿だ。
「良い顔、しているじゃないかぁ」「そうでしょう」
高田部長が思わず漏らす。とても『捕らわれの身』とは思えない。
しかしまぁ、誰でも『初日はこんなもんだ』と高田部長は思う。口をへの字にして頷いた。
「これじゃぁ『とても襲って来る』ようには、見えませんねぇ」
「我々も、そこん所を『重々注意』されておりましてぇ」
牧夫の感想に、隊長が渋い顔で口を挟む。
しかし、実際に体験した訳ではない。ちょっと『シミュレーション』しただけだ。
吉野財閥自衛隊の膨大な映像記録の中に、全盛期の本部長協力による『拘束指南入門編』というのがある。
そこでの『NG例実戦編(独房開放時)』という章で、『もしも独房に捕らわれているのがスパイだったら』のケーススタディだ。
本部長自らが『スパイ役』として出演していた。
そして、ビデオ映像がブレてしまう程の速度で、扉を開けた監守を襲うのだ。正に『虎の瞬間移動』である。
それがVHSの『三倍モード』だったとしても、ブレ過ぎだ。
とりあえずその映像をコンピュータに入力し、隊員達は『3D映像の本部長』と訓練していたのだが、その『判定結果』は、全員即死だった。今回、出動が遅れた原因はコレだ。
そんなこととは露とも知らず。牧夫が本部長の映像をシュッと送った時だった。牧夫が叫ぶ。
「これ琴美ですっ! この洋服見覚えがありますっ! 琴美っ!」
「ええっ、本部長の隣だったのぉっ! 痛っ!」
全員がタブレットを覗き込んだので、頭をぶつけて星が出た。




