ハッカー殲滅作戦(百七十七)
「と、とにかく、開けて下さいよっ! お願いしますっ!」
突然慌て出した隊長の様子が、ちょっと笑える。
しかし我々の苦労も、少しは判って欲しい。そう訴えている。
彼らは慎重に、本部長を探していた。
足音を立てないように監房を歩き、ドアの覗き穴から『L字のスコープ』でそっと覗き込む。
そうやって一部屋一部屋、慎重に探していたのだ。
銃声なんて聞かせたら、とんでもない。『銃がある』と判ったら、それこそ『ドア』なんて打ち破って、出て来るかもしれない。
そして、そこに『軍服』を着た人間を見つけたら。
考えたくもないが、当然のように襲われて、その扱いはマネキン人形より酷いことになるだろう。
本部長にとって、『作戦開始時点で認識した者以外は敵』である。そして、『作戦開始後に出会う軍人は全て敵』なのだ。そこに『迷い』や『躊躇』というものは存在しない。
「本部長って、結構めんどくさい人間なんですねぇ」
苦笑いで呑気に言っているのは牧夫だ。
全く。鼻くそなんて穿りながら、勝手なことを言いやがって。
「じゃぁ、牧夫行って来いよ」
その一言は、高田部長しか言えないことだと、他の誰もが判っている。居合わせた全員が首を横に振る。
すると牧夫が、口を尖がらせながら言う。
「奥さんでも、連れて来れば良いじゃないですかぁ」
それは『ナイスアイディア』である。しかし、それは無理と言うものだ。高田部長を含め、全員が黙っている。
「じゃぁ、富沢部長は?」
「どうだろうなぁ」
そっちなら、まだ可能性はある。
高田部長は目を瞑って首を捻り、考え込む。
それは『ハーフボックスに放り込んだら、何分で来れるか』を、検討しているようにも見える。しかし、周りの空気が重い。
「似てるでしょ?」
牧夫が聞くその問いには、誰も答えない。
確かに富沢部長は実の娘であり、母親の京子とそっくりである。
一般人に『若い頃の京子だ』と言っても通じるだろう。
しかし相手は父親。それは通じない。そして、牧夫以外の全員が知っている『事実』がある。
『大きくなったら、私、パパと結婚するの!』
そう言って父親を喜ばせていたにも関わらず、父親の反対を押し切って、駆け落ち同然に結婚したのだ。(本部長談)
裏切り者を許さない本部長が、果たしてそれを『裏切り行為』と見るかは、『娘を持つ親』でないと、判らないだろう。




