ハッカー殲滅作戦(百七十五)
「逃げないで下さいねぇ」
隊長の笑顔に磨きが掛かる。それを見た高田部長は、両手に持っていた拳銃をクルクルッと回してホルダーに入れると、『俺は何もしない』とばかりに腕を組んだ。
「フンッ」「まぁ、そう怒らずに。ねぇ?」
高田部長が荒い鼻息を吐いてソッポを向く。まるで子供だ。それを隊長が下から覗き込む。
きっとここで、肩でも『ポンポン』と慰めようものなら、その隙に逃げ出すことも、把握しているようだ。
一方の牧夫は『早く開ければ良いのに』と思いながら、鼻くそを穿っていた。そして、穿り出したのが『意外と大きい』と思ったのか、頷きながら丸めてピンと弾き飛ばす。
すると三人を良く観察していた兵士は、シュっと避けた。
「本部長の部屋、扉を開けちゃダメなんですか?」
不思議そうに牧夫が聞く。
すると高田部長が、突然嬉しそうな顔になった。その顔は『そうだ、こいつ知らないのか』である。
すると、隊長が渋い顔を牧夫に向けた。
「開けた人は、だいたい死ぬんでぇ。ねっ? ご存じですよね?」
確認するために振り向いた先は高田部長である。
すると、凄く嬉しそうな顔から一転。『何言っちゃってくれてるの』と、片目を瞑りながら鼻をピクっとさせ、一回だけ頷くように隊長を睨み付ける。
そして、部下を思いやる『優しい上司の顔』になって、牧夫に声をかける。
「お前ならできる」
「いや、出来ても死んだら嫌でしょう」
牧夫の返しは早かった。とても。それに、隊長の頷きは、もっと大きかった。
隊長は、総帥からの厳命『琴坂一家の無事帰還』を、忘れた訳ではない。それに『高田部長の無事帰還』の命令は、記憶にある作戦書の、どこを捲っても出て来ない。
「何で死ぬんですか?」「襲って来るんだよっ」
「えっ男でもですかぁ?」「そうだよって。そうじゃないんだよっ」
牧夫が『いがぁい』な顔をして、高田部長を見つめている。
その目は『そうか。二人はそういう関係』とでも、きっと思っているのだろう。顔を赤らめて『お幸せに』と目配せし始めた。
「なので是非。イーグルに逝って頂きたい」「何で俺なんですかぁ」
「だって『実績』あるんですよね?」「大分昔ですよぉ」
口論を始めた隊長と高田部長の顔は、とても対照的だ。牧夫から見たら、どちらも『笑顔』なのだが。




