ハッカー殲滅作戦(百七十)
階段を降りた所に職員の詰所があって、今は死体が二つ転がっている。高田部長はそれを蹴っ飛ばして、詰所のドアを開けて中に入った。
「なむなむぅ」「そんなのは良いんだよ」
死体を拝む牧夫に、高田部長が釘を刺す。
「えぇっ? 放置なんですか?」
「そりゃそうだよ。戦場なんだからさぁ」
放送機器の電源を入れながら、面倒臭そうに話す。そして、二人目にナムナムする牧夫を放置して、マイクを手にした。
『本部長いますかぁ? 助けに来ましたぁ』
館内放送を入れてみる。すると急に騒がしくなった。
「(ドンドン)いるぞっ! 助けてくれっ! 解放してくれっ!」
「(ドンドン)俺が『ペンギン』だっ! 開けてくれっ!」
鍵の掛かっているドアを叩きながら、見知らぬ誰かが叫ぶ声がそこら中にこだまする。
「本部長の声、した?」「判りませんねぇ」
二人は耳を澄ませるが、いつもの『声』がしない。
高田部長は来たばっかりだと言うのに、拳銃をぶっ放してストレスを発散したのか、もう帰りたいのだろうか。
「寝てるのかな?」「かもしれませんねぇ」
確かに本部長なら、寝ていてもおかしくはない。薄荷乃部屋でかなり煩くなっても、いつも寝ているし。これ位の騒ぎでは、静かな子守歌だろう。
「じゃぁ、次行くか」「いやいや。開けてあげないんですか?」
あっさりと次に行こうとする高田部長に驚いた牧夫は、音のする方を指さして声を掛けた。
解放もしないで行くのでは、今、足で踏んずけている『その方』は、一体何のために戦い、そして、何のために死んだのか。
意味が判らないではないか。
「しょうがないなぁ」「お願いしますよぉ」
戻って来た高田部長が、操作パネルを眺めている。と言っても、それは『電子式』とか高等なものではなく、物凄くシンプルな『機械式』だった。
「お前がやれよ」「良いんですかっ!」
牧夫の顔が、パッと明るくなった。
「おぉ。お前に『ヒーロー』譲るよ」「あざぁぁっすぅ!」
喜んで牧夫が『全解放』レバーをグッと操作した。
するとどうだろう。突然赤いパトランプが点灯して回り始め、ドアが次々に開いて、中から人が飛び出して来た。
高田部長はその中に、本部長の姿を探しているのか、詰所から出ようとしない。だから牧夫もそのまま一緒に、人が流れて行くのを眺めていた。
「弾避けに行って貰って正解だな」「酷いですねぇ」
高田部長の呟きに、牧夫は渋い顔だ。
「お前が『開けた』んだろうがぁ」「ええぇっ。俺のせいすかぁ?」




