ハッカー殲滅作戦(百七十)
兵士は渋い顔をしている。高田部長が所持している拳銃が本部長に渡り、牧夫が所持しているパソコンが高田部長に渡る。
それは、『全員の死』を意味するのだ。
「じゃぁ、GOでお願いしますね」「はい」
兵士は牧夫が頷いたのを確認し、振り返って身構える。
色々考えても仕方ない。どっちにしろ、さっさと『ここ』をずらかれば生き延びられる。そう考えて、そのまま作戦を続行する。
兵士が通路から、銃を撃ちまくっている。
「GO!」
大声で叫んだ。しかし足音も、返事もない。兵士は振り返る。
そこに、牧夫の姿はなかった。聞こえて来るのは、階段の方からの、牧夫のでかい声だけだ。
『置いて行かないで下さいよぉぉ!』
それを聞いた兵士は、渋い顔で首を振る。命知らずなのか、馬鹿なのか。まったくもって見分けが付かない。
西部劇のピアニストじゃないんだから、狙われますからね?
「もぉ。ハッカーって、みんなそうなのぉ?」
どうやら制圧には成功したようだ。兵士は牧夫とは逆方向に前進して行った。
「何だ? うるせぇな。でかい声を出すなっ!(バンッ)」
「そんなこと言ってぇ。まったく」
高田部長の叱責も、牧夫には響かないようだ。むしろ怒りの言葉をぶつけている。
「自販機でジュース買っている間に、いなくならないで下さいよぉ」
「お前がさっさと(バンッ)、買えば良いんだろうがぁ(バンッ)」
拳銃をぶっ放しながらの会話は、ちょっとし辛そうだ。
「結構さっさと買ってましたよぉ。はい。コーヒー」
二丁拳銃でバンバンやっている所に、缶コーヒーを出されても。一体、どうしろと言うのだろうか。
すると高田部長は、両手の拳銃を胸の前でクロスさせると、笑顔になって舌を出す。
「にょませろっ(ベロンベロン)」
ポーズを決めたままだと、凄く喋り辛そうだ。言われた牧夫は『そのポーズの意味』を知っている。渋い顔で確認だ。
「ちゃんと倒したんですか? (パカン)」
「うんうん。当たり前だろう」
何で俺がと思いつつも、渋い顔で缶コーヒー開封し、高田部長の口元へ缶コーヒーの飲み口を持って行く。
すると高田部長も、銃をクロスさせたまま舌を引っ込めると、口を窄めて顔を前に出す。
「あちぃっ! 俺、冷たいのって言ったよねぇ!(バンッ)」
まったくもって、戦場で牧夫は使えない奴だ。
「あぁ、そう言えば、言ってましたねぇ」
補給品を間違えたのに、その認識が低い。
渋い顔になった高田部長が、見事な二丁拳銃捌きで敵を倒した。そして、再びポーズを採る。(ベロンベロン)
「馬鹿っ、ホットは良いよ」(チュンチュン)
再びホットコーヒーを飲ませようとした牧夫を、高田部長は突き放す。
すると、牧夫がいた所の壁から、コンクリート片が飛び散った。
「じゃぁこれ、本部長のにしますかっ」
突き飛ばされて、ちょっと零れてしまった缶コーヒーを、ハンカチで拭いている。どうやら、高田部長と、本部長の『間接キス』が、この後拝めそうだ。
期待する者は、誰もいなさそうだが。
「お前、そのまま(バンッ)そーっと持ってろっ(バンッバンッ)」
高田部長も『その案』に賛同したのか、拳銃をぶっ放しながら牧夫に指示をする。
それはまるで、いつもの『スポーツ新聞を読みながら出す指示』と、大差はない。あるとしたら『ホットライン』ではなく『地声』なことだろうか。
「えぇっ。ペットボトルにすれば良かったぁ」
牧夫は二本指で、熱々の缶上方を持つことにした。




